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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~遭遇(1)

 
 教室に余りいない、と本人が言っていた通りに、昼休みになると悠はすぐに教室からいなくなる。
 良太郎が訊いてみると、理由は図書室にいるからということらしい。活字中毒が高じて図書委員会に所属しているから、その業務もあると言っていた。
 痴漢の一件以来、毎朝同じ電車で通学するようになり、週のうちの半分くらいは悠が担当している図書業務があって、その日は帰りも一緒だ。
 でも、学校帰りにそれなりに一緒に遊んでいるかというと、そういう訳でもなく。
 「うちの親、帰りが遅くなるとうるさいんだ。」
 一度部活のない日にクラスの数人とカラオケに誘うと、困ったような顔でそう言って断られた。
 夜7時を過ぎると嫌な顔される、と言っていた。休日は休日で、趣味で出掛ける親に家の手伝いをさせられるらしい。同じ男子高校生としては随分と過保護、というよりはむしろ過干渉な気がするのは、良太郎の気のせいだろうか。
 
 四月末日。ゴールデンウィークでちょうどその連休の谷間になってしまう平日。
 良太郎の通う高校ではその日を使って身体測定を実施している。
 学年やクラス、男子女子で別れたタイムテーブルは、遅くても昼過ぎには全校生徒の測定を終えることが出来るように組まれている。
 家族サービスで休みを取る教師の為に、わざわざ一日使っているという噂もあり、生徒の中にも旅行やイベント参加で休む者だっている。
 「クマ、身長2メートルになった?」
 脱ぎ易いジャージから制服姿に着替え、珍しく教室にいる悠と一緒に弁当を食べていると、測定が終わって戻ってきたクラスメートの一人が、おどけた口調でそう訊いてきた。
 「まだなってない。190にだって届いてないぞ。」
 苦笑しながらそう答えるとペットボトルを持ち上げ、良太郎の味覚的には美味いとは言い難いアミノ酸入りのドリンクを一口飲んだ。
 「クマの測定シートってこれ?」
 そいつは隣の空き机に載せられたままだった測定シートを手に取ると、数人が一緒に覗き込む。
 「身長188.6センチ、体重82.3キロ……胸囲は95超えてるじゃん。すごい巨乳だ。」
 「ちょ、それ、お約束ネタ。」
 「高校生の身体じゃないよな。」
 「82キロって、俺の2倍くらいあるよ……」
 「おまえが細すぎるんだよ。」
 他人の身体データで好き勝手喋る連中を横目に、良太郎は弁当の最後の一口を食べ終わると、手早く弁当箱を片付ける。
 「柔道やってる人間で俺の身長だったら、もうちょっと重くていいんだけどな。脂肪が付きにくいみたいだ。」 
 良太郎が知ってる限りでは、テレビで見るようなオリンピックで活躍した日本人の大柄な選手は、体重が100キロを超えることが珍しいことではない。
 「確かに、腹筋はバキバキに割れてたな。ムネといい、ハラといい、ちょっと羨ましい……。」
 「最近食べ過ぎなのか、オレのハラが!ハラが!」
 「じゃあ、82キロ全部が筋肉?」 
 「いや、骨あるし。」
 一人が上げた安直な問いに別の一人のツッコミが入る。
 「中学でバスケットやってた頃よりは、15キロ以上増えてるから、その分はそうかもな。」
 「へぇ~、バスケやってたんだ。」
 「中二の夏に辞めて、それから柔道始めたんだ。」
 「それで、あんまり柔道選手っぽくない体付きなのか。」
 黙々と箸を運んでいた悠が、食べ終わったのか箸をケースに仕舞いながら、納得したように言った。
 「高校生にもなれば、そのスポーツに特化された身体付きになってきてるから、結構見ただけでも判るんだけどな。」
 久間は初見じゃ分からなかった、と悠は肩をすくめた。カバンに弁当箱を入れ直し、代わりに取り出した木目の入った白っぽいブレスレットに左の手首を通す。
 「……それ、いつもつけてるよな?」
 「あ~、お守りみたいなものだから。」
 良太郎の問いに少し考えたあと、悠は小首を傾げながらそう答えた。
 「クマ、帰りにカラオケでも行かない?ハルちゃんもどう?」
 「俺はいいけど。」
 悠の方を見やると、良太郎をチラリと見た後、残念そうな表情で吐息をつく。
 「ごめん。今日に限って用事入ってるんだ。」
 誘ってきた当人へ答えると、カバンを持つと席を立った。
 「じゃあ、また連休明けに。」
 「あぁ、またな。」
 申し訳なさそうに手を上げ、悠はブレザーの裾を翻して教室から出て行った。


  6月1日、衣替え。今日から制服が夏服になる。男女共にブレザーがなくなって、半袖のカッターシャツやブラウスになるだけ。ボトムの方も手間でなければ夏用の物を着用していい。それでも、不況の世間的に言えば、ご家庭に余裕があれば、どうぞと言ったところなのだろう。
 「やっぱり着痩せするんだ、久間。」
 いつも通りに定刻の電車に乗り合わせてきた悠が、薄く笑いながら開口一番で良太郎にそう言ってきた。梅雨入り前の朝で、じわりと来る暑さも平気らしく、ぴっちりネクタイを締めている。少しだけ短くした髪から覗くうなじも、良太郎の手で楽に握り込めそうな細い手首も相変わらず白いままだ。
 「体育のジャージ姿だと、よくわからないけど、ブレザー脱ぐとさすがに判るな。」
 言いながら悠の細い指が、良太郎の筋肉の浮き上がった前腕の辺りや、盛り上がる二の腕を掴む。
 「鍛えてるからな。」
 「力入れたら、シャツが破れそうだ。」
 思いがけない程に柔らかい手のひらの感触に、なぜかうなじにザワリとした感覚が湧いて、良太郎の二の腕の内側に太い血管が浮き出てしまう。 
 「まぁ、実際ワイシャツの襟きついんだよ。」
 さり気無く、悠の手が外れるように自分の手を動かすと、襟元に指を入れて首を二、三度振って見せた。
 良太郎本人がきついと言うように、悠の目にもシャツ越しに肩の張りや胸板の盛り上がりが見て取れて、鍛えているというのが良く判る。
 部活のロードワークで走ったりするせいで、もともと濃い目の肌の色がさらに焼けた色になっているからか、余計に迫力が出てしまっていた。
 実際、良太郎本人は気が付いていないが、向かい合わせで話している悠には、チラチラと良太郎を見る女子高生やOLの視線が視界の端に見て取れた。
 教室に着いたら着いたで、高校生離れした良太郎の体躯は最初はゴツイ、暑苦しいとは言われたものの、装備してる生地が薄くなった分、健全な男子高校生としては身近な女子の胸の大きさや透けてしまう下着の方が重要なようだ。すぐに話題は声の潜めて話すようなそれに変わっていった。
 「そういえば、生物実験室で幽霊見たって話、知ってる?」
 次の英語の授業の為の、テキストの和訳を良太郎が悠に教えてもらっていると、暇なのかそんなことを言ってきた奴がいた。
 「またまたお約束なネタじゃないの?」
 「シチュ的にはそうだよね~。」
 「先週なんだけど、日替わりで複数の人が見てるんだ。」
 良太郎も半分そちらに耳を貸しながら、悠のノートの和訳を書き写していく。
 「四月くらいから、夜遅くに通ると、たまに唸るような声、っていうか音?が聞こえるって話あったよね。」
 「それが先週、新体育館でやってた部活の生徒が見ちゃったらしいよ、ホンモノ。」
 新体育館は柔道部が使っている道場や体育館とは別に、何年か前に新しく建てられたものだ。
 「何かの見間違いじゃなくて?」
 「うん。その唸るような音が生物実験室から聞こえてきて、まぁ、女の子ばっかりだったけど、5人いたし、確かめてみようってことになって。」
 「なって?」
 「ドアを開けて、中にはいったら、ピタッて音が止まったんだって。」
 「そこで帰ればいいのに……。」
 「怖いもの見たさってやつだよねぇ。」
 気が付けば、教室のざわめきは静まり、皆静かにその話に耳をそばだてていた。
 「で、中に入ると誰もいなかったんだけど、入った方とは反対側のドア、黒板のあるほうに黒っぽいモヤがあって。」
 いつの間にか良太郎も手を止め、顔を向けていた。
 「その黒いモヤモヤが、いきなり人になったんだって。昔の兵隊さんみたいな服着た人で、それで、」
 「……それで?」
 「『滅ぼすつもりか!!』って声が聞こえてきて、」
 いきなり大きな声で言われたセリフに驚いたのか、何人かの女子が小さく悲鳴をあげた。
 「悪趣味だな。普通に言えよ~。」
 「お約束だろ~。まぁ、入ってきたドアから逃げてそれっきり。あとで先生が確認したけど、何もなかったし、誰もいなかったってさ。」
 タイミングよく授業開始を告げるチャイムが鳴り、教室にざわめきが戻る。悠も自分の席に戻るべく腰を上げた。
 「生物実験室の横の階段良く使うけど、そんな音聞いたことないな。」
 自分のノートを手に取ると、そう言いながら首を振った。

 この時聞いた幽霊目撃事件に実は悠が関わっていて、そしてのちに良太郎が関わってしまったが故に、二人の関係も、そしてその人生すら左右されることになるとは、良太郎にも悠にも予想すら出来ることではなかった。

 
 「あれって、良太郎の友達の、図書委員のヤツじゃないのか?」
 部活が終わり、柔道部の連中と駅前を歩いていると、三年生の一人がそんな声を上げた。
 声に釣られた良太郎がその指さす方を見ると、ファーストフード店のガラス張りの店舗の片隅に、悠の見慣れた姿があった。普段余り見ることのない柔らかい笑みをはっきりと浮かべているのが見て取れた。
 同じテーブルに座った、大学生くらいの若い男二人との話に盛り上がっているようだ。
 今日は図書委員の週番の日のはずだったが、ちょっと用事があるから待たずに先に帰る、と良太郎が道場に向かおうと教室を出たところで、悠にそう言われた。
 腕時計を見れば、良太郎達は何軒かショップに寄ったから、すでに夜の7時を余裕で過ぎている。いつもの悠なら、すでに帰宅していないといけない時間のはずだ。
 「あの二人、見たことあるな、そういえば。」
 部長が不意にそんなことを言い出す。
 「たしか、あれは……四月の、身体測定の日だ。」
 そう言えば、あの日も悠はちょっと用事があるって、先に帰っていったはずだ。
 「俺が職員室行ったら、教頭の所に案内されてきて、何か話してたのは覚えてる。」
 「うちのOBの人ですか?」
 一年生部員が部長にそう訊くが、返ってってきたのは否定の答えだ。
 「俺が一年の時の三年生にも見覚えはないなぁ。」
 そんな会話を聞きながら、明るいオレンジ色のライトに照らされている三人が立ち上がった。
 「あ、電車もうすぐ来ますよ。」
 一年生の気をきかせた台詞に他の電車通学組の部員が、やべぇ!と小走りに走りだしていく。
 良太郎もつられて走り出すも、気になって振り返ってしまう。
 と、ちょうど三人がファーストフード店を出たところだった。そのまま三人は青白い街灯に照らされ、高校のある方向へと歩いて行く。
 腕時計を見ると、あと数分で電車が来てしまう。次の電車を逃すと、その次が来るまで結構な時間が開く。
 気になるが仕方なく小走りで走り出し、先を行く部員達を追い掛けた。

 改札を通り、少し上がった息が収まり出した頃に、電車が間もなくホームに到着するというアナウンスが掛かる。
 良太郎の胸には悠の姿をガラス越しに見た後から、ずっとモヤモヤとした気持ちが渦巻いていた。
 自分の知らない人間に悠が見せていた、普段学校では見せないはっきりとした笑顔。
 訳もなく、不愉快だった。
 普段からクラスの中でも、それほど他人と余り関わろうとはしない悠とは、他の生徒よりは近い距離にいると思っていたのだ。
 そんな自分でも見たことのない明るく笑った顔。
 「なに、眉間にシワ寄せてるんだよ。せっかく男前が凶悪になってるぞ。」
 部長に指摘されて、考え込むうちにそんな表情になっていたことに気付かされた。
 「……ちょっと学校に忘れ物したんで取ってきます。」
 そう口走ると身を翻し、改札を抜けた。背後で良太郎を呼ぶ声が聞こえたが、構っていられない。
 『……確かめるだけ。確かめるだけだから。』
 自分で自分にそう言い訳しながら、そもそも何を確かめるのか良太郎自身がよく解らないまま、衝動に突き動かされるように、駅前の道を先程とは逆に駆け戻る。
 三人がいたファーストフードの店の前を通り過ぎ、10メートル先で足が自然と止まった。
 そもそも良太郎には三人がどこに行ったのかも分からないのに、確かめるも何もない。
 『俺が職員室行ったら、教頭の所に案内されてきて、何か話してたのは覚えてる。』
 思い出されるのは、部長のあの言葉。
 『学校……。』
 後から考えればカラオケやゲームセンターとか、他にもあったはずなのに、その時良太郎が思い付いたのは学校くらいで、他に悠とあの二人の接点らしき場所が思い付かなかった。
 肩から掛けたバッグを一度掛け直すと、良太郎は学校へ向かって走り始めた。
   
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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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