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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~遭遇(2)

    
 良太郎が正門に着いた時、すでに校舎に人影はなく、正門の右手にある職員用の駐車場もカラの状態で、止まっているのは街頭から離れ過ぎて色が分からないが、ワンボックスのワゴン一台だけだ。
 悠がここに戻ってきている確率なんて、高い訳がない。良太郎自身がそう思う。点在する街路灯に照らし出された夜の校舎は、不気味な雰囲気を醸し出していて、それがその予想を後押しした。
 しかも、校舎に近付くに連れ、言いようのない嫌な気持ちが湧いてきて、それが足取りを鈍くする。湿度を含み始めた六月の空気が身体にまとわりつくような錯覚を覚えさせた。
 走って荒くなった呼吸が整うに連れて、良太郎の思考も段々と冷静になってきた。
 暗く不気味な校舎を見ていると、そんなに気になるようなら、悠には明日の朝に訊けばいいような気になってくる。
 自分に向けられたことのないあの笑顔を見てしまったことに、胸のどこかで一抹の寂しさを覚えながらも、そうしようと決めた。
 昼間、教室で聞いた幽霊目撃事件の話もあることだし、帰ってしまおう。柔道の黒帯有段者として、腕に覚えがない訳ではないが、それが幽霊に通用する訳がない。
 そんな風に、そこだけは至極真っ当な常識的に考えた、その時。
 『ウオォォォォォ』
 人が唸るような声というか音。そんなものが不意に校舎の方から聞こえ始めた。
 「……まじかよ。」
 思わず良太郎の口から、そんな言葉が漏れる。
 徐々に大きくなっていくその鼓膜を圧迫するような音に、鳥肌が立つのが自分で分かる。思わずヒクリ、と喉仏が動いた。
 良太郎には、聞こえてくる音と一緒に、自分の心臓の鼓動まで大きくなっていくような気がする。
 なんとか左足を一歩引き、一目散に走り出そうと後ろを向いた。と、奇妙なモノがそのまま視界に入る。
 街路灯に照らし出された黒くわだかまった闇。それがみっつ。
 人工の光に照らされたアスファルトから縦に生えた闇。そうとしか形容しようのないモノがあった。
 昼間に聞いた幽霊目撃事件の話が良太郎の脳内で再生される。
 『その黒いモヤモヤが、いきなり人になったんだって。昔の兵隊さんみたいな服着た人で、それで、』
 良太郎の眼に映る真ん中の影から、ぬぅ、と白っぽい半透明な人の手が二本出てきた。肘まで出てきたところで、闇が消え、古い映像でしか見たことがない兵隊の服を着た姿になった。
 ジリッ、と良太郎が左足を一歩引く。半透明な幽霊らしきそれも、ゆらり、と前へ出た。
 今更ながら、その幽霊が男で、足があることに気が付く。
 兵士の幽霊の左右の闇からも同じように、同じ姿の幽霊が出てきた。
 『滅ぼすつもりか!!』
 聞いていたままの声が、正面から良太郎に叩きつけられる。
 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
 盛大な悲鳴を上げると、無意識のうちに一番開けた場所の校庭へと向かって、良太郎は一目散に走り出した。

「……結界の中に誰か入ってきたね。」
 中庭にある桜の木を背後にするように、立っていた三つの人影のうちの一つがそう言った。
 「この感じは、僕らと御同業みたいだけど。」
 防犯の為に設置された校舎の壁からのライトが、その言葉に振り返った悠の眼を細めさせる。
 「ハルくん、この前掛けた『封じの結界』の方は解除出来た?」
 ライトに照らされた二人のうち、神主が着るような白衣に白袴姿の男の方が、確認するように悠に尋ねた。
 四月の末に、この学校の土地で微睡む『魄気』を一時的に深く眠らせる為に、悠自身が張った結界。
 サポートを担当している二人に言わせれば、「『護り人』一年目の人間が完璧にできる方がおかしい。」らしいので、ひと月『魄気』を休眠させられただけ上出来なようだ。
 「はい。解除できました。」
 悠が頷いてみせると、白衣姿の彼はうんうんとその整った顔でらしく頷き返した。
 「じゃあ、次は、『誘いの言霊』を。最初に風の『御霊』にお願いして、『言霊』を運んでもらえるように術式を編むんだよ?」
 「……やってみます。」
 緊張で強張る悠の肩を、それまで黙っていたもう一人の大柄な人影の方が、軽く叩いた。
 「出来が良いからって言っても、こればっかりは1度2度でどうにかなるもんじゃない。気楽にやるといい。」
 がっしりとした身体にデニムの上下を着込んだその男は、精悍な顔に安心させるような笑みを浮かべる。
 「はい。……では、いきます。」
 深呼吸を一つすると、悠は二人に背を向け、右手で握った漆黒の錫杖を水平に構え、左手を開いたまま添えた。そして半眼になると、意識を集中させていく。
 「風よ、風の御霊よ!空の奥底、天翔ける、汝ら風の御霊よ!」
 悠の口から『言霊』が力強く開放され始める。
 「……願わくば我が古き真名と、汝らが主の名と、我らを創り給いし尊き母の御名において、我、此処に汝らに願う。願わくば此の若人学びし学び舎のその果てまで、我が言霊満たすこと、疾く成さしめよ。我、現世の護り人、常世への導き手、扉叩き開くものなり。」
 悠が言霊を紡ぎ出すに連れ、それに誘われるように三人の着ている服や髪がふわり、ふわりと柔らかく吹き始めた夜風になびき始める。
 「……我、恐き恐きもの申す。此処にひと時眠りし古き心の欠片、その眠り呼び覚ますものなり。我が言霊に従いて、ひと時の眠りより覚め給え、御身ら日出づる国守るが為に果てし兵たちよ。」
 『ウオォォォォォ』
 悠の口から、最後の一節が紡ぎ終わると同時に、人が唸るような音が聞こえて始めた。
 「……ええと、ということは僕の術式は成功したんですよね?」
 「うん。やっぱり頭良い子は違うね~。初めてで術式発動させちゃうんだもんなぁ。」
 いつの間にか悠と同じ錫杖を手に持った白装束姿の方が、うんうんと感心するように頷く。
 「いえ、御二人が居てくれたので……。」
 悠が照れたように俯くと、デニム姿の方が二人の注意を引くように、手にした木刀でぺちぺちと自分の手の平を打ち鳴らす。
 「ほらほら、じゃれてないでそろそろ来る……」

 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 何人もの兵士の幽霊に追い掛けられる良太郎が、校舎の角を曲がり中庭に差し掛かった時だった。
 「えっ……久間!?どうして!?」
 「し、鎮守!?」
 良太郎の目の前に現れたのは、いつもの黒縁メガネもなければ、どこかの神主みたいな白装束を着てはいるが、鎮守悠本人だ。
 悠だけでなく、同じような白装束姿の若い男と、大柄な身体付きのデニム姿の男と一緒だ。
 「にげ、逃げないと、幽霊が!」
 背後からヒシヒシと伝わる異様な気配に良太郎がそう訴えると、白装束姿の若い男が手にした漆黒の錫杖を構える。
 「風よ、我が前に立ち塞がり仇なす敵を斬り裂け。」
 そう彼が唱えた数瞬後、何かを裂くような音が良太郎の両脇を抜けていく。
 「とりあえず、大丈夫だからな。」
 見慣れない姿の悠の手に、走ってきた身体を止められた。
 「大丈夫か?ええと、鎮守の知り合いかな?」
 話しかけてきた木刀を持ったデニム姿の男にガクガクと頷き返しながら、良太郎が背後を見ると、あれだけ迫ってきていた幽霊の姿が全て消えてしまっていた。
 「もしかして、ハルくんが見られちゃった相手って、彼?」
 「そうですが……。」
 「じゃあ、彼、有資格者だと思うよ。さっき、結界抜けたのもそうだろうし。ハルくんの術や結界に耐性ができつつあるみたいだから。」
 白装束姿の男の言葉に悠が困惑顔をしているのが見えた。が、状況を理解しようにも、その言葉は良太郎がゲームかマンガでしか触れたことのない言葉の羅列だ。
 「なるほどな……。随分いいガタイしてるけど、なにやってるんだ?」
 「柔道です。」
 デニム男が訊いてきたので、思わず背を伸ばし答えてしまう。体育会系の哀しいところだ。
 「なら大丈夫そうだな。じゃあ、カバンはその木の下あたりの置いて、ほれ、これ貸してやるから……」
 「ちょっ、待ってくださいよ、火村さん!」
 良太郎の腕を掴んだ火村という名前のデニム男は、中庭のあの桜の木の下へ連れて行った。悠が慌てたように後を追ってくる。
 「どうせ、あとで説明しないとならないし、ついでに適正があるかないかも見られる。だから手伝ってもらう。」
 「そんな、だって一般人ですよ!?」
 「最初はみんな一般人だ。お前だって、2年前まではそうだったじゃないか。」
 「そうですけど、そうですけど……藤代さんもなんとか言って下さいよ!」
 「まぁ、彼、胆は据わっているみたいだから、大丈夫じゃないかな?」
 校庭の方を眺めていた藤代と呼ばれた白装束姿の男は、チラリとこちらを見ると、悠に薄く笑って、そう返してきた。
 火村に言われた通り、通学用のカバンとスポーツバックを木の根元に下ろした良太郎に、火村の身長と同じくらいの長さの木の棒が渡される。
 「これは、棒術や杖術と言われるもので使われるものだ。こいつを貸してやる。いいか、これからさっきお前が追い掛けられた幽霊がわんさか押し寄せてくる。そいつらを思いっ切りぶん殴れ。なるべく当たる面積は大きくだ。下手に半分にすると、奴等ホフク前進してくるからな。」
 渡されてしまった堅い木の棒を、思わず素直に受け取ってしまった良太郎だったが、言われたことは物騒なこと極まりない。
 「……もしかして、あれと戦えとか言うんじゃ……、」
 「ああ。」
 「やっ、無理、むりむりむりむり。無理ですって!」 
 「死にたくなければ、やれ。拒否権はない。」
 火村と呼ばれた男は良太郎の眼を見ると、そう言い放った。
 
 「「風よ、我が前に立ち塞がり仇なす敵を斬り裂け!」」
 唸るような声を地に響かせながら、兵士の幽霊が続々と押し寄せる。それを白装束姿の悠と藤代の、タイミングを合わせたかのような声が迎え撃つ。
 二人の白装束の裾がふわりと風に揺れたあと、何かを裂くような音が走る。
 そして、のろのろとこちらへと向かってきていた幽霊兵士が、見えない何かにもんどり打って吹き飛び、背後へ押し戻されていく。
 『ウオォォォォォ』
 一度に押し寄せてくる数は少なくったものの、それでもゆっくりとした足取りで良太郎達の方へと向かってくる。
 「殴るときは、臍の下に力を込めて、そこから力を両腕に流れ込むように意識してやれ。」
 良太郎へと火村から声が掛けられた。
 「漏れたのは、後ろの二人が片付けるから、気にするな。出来る限りでいい。ぶん殴れ!いいな!?」
 「はい!」
 体育会のノリで思わず、良太郎は返事をしてしまう。死にたくなければやれ、と言われればやるしかない。
 「これだから、体育会系は……。」
 背後に下がっていた藤代がブツブツ何か言ってる。
 ふらふら、ゆらゆらと向かってくる幽霊兵士は、先程吹き飛ばされたのか、それとも元からなのか、片腕がない。
 白っぽく透けた状態なので、スプラッタになってないのが良太郎にとっては不幸中の幸いかもしれない。
 覚悟を決めると、握り込んだ得物の狙いを定め、大きく振りかぶる。
 『密度の濃い空気』としか表現のしようがない妙な感触が手に伝わってきた。振り抜けた幽霊兵士の動きが止まると、姿が溶けるように消えていく。
 「お、思った通りだな。」
 火村からそんな声が聞こえ、幽霊の消える様を見ているうちに、次の幽霊兵士が近づいてきていた。
 良太郎は近づいてくる姿を見据えると、もう一度手の中の得物を構え直した。
 
 1時間が過ぎた頃だろうか。ようやく押し寄せてきた幽霊兵士軍団が途絶えた。校舎の壁からのライトに照らされた中庭には、幽霊の死体?というか、その身体のパーツがうすぼんやりとした姿で散乱している。
 血があったらさぞかしスプラッタな光景なのだろう。実際はホラーなのだが。
 緊張と疲労で気が付けば、良太郎はワイシャツにまで汗が染み出していた。思わず桜の木の根元にへたり込んでしまう。
 良太郎以外の三人は汗一つ掻いておらず、涼しそうなものだ。
 「これくらいでいいか?」
 何かを確認するかのように訊いた火村に、藤代が頷き返した。
 「ハルくん、出番だよ。」
 「はい。」
 悠が数歩前に出ると、漆黒の錫杖を胸の前に構え、さらに開いた左手を添えた。
 「風よ、風の御霊よ。空の奥底、天翔ける、汝ら風の御霊よ。」
 まるで呪文のような言葉が悠の口から漏れてくるのが良太郎の耳に届く。そして空気がゆっくりと動き始めたのが肌で感じられる。
 「これで、幽霊を浄化するんだよ。そして、これが出来るのは俺達みたいな人間だけなんだ。」
 座り込んだままの良太郎を見下ろすと、藤代がそう説明してきた。
 風が緩やかに渦を巻き、空へと昇って行っているようだ。風の流れに季節外れの枯れ葉がどこからか乗って一緒に巻き上がっていく。
 「……白き清めの風となりて、我望みしこの学び舎より、彼の者らが想い、そのすべて解き放て。」
 ピシッピシッピシッっと何かが砕ける音がしたのと同時に、巻き上がっていた風の流れが止まった。
 そのとき遠いどこからか、風の唸る声が良太郎には聞こえたような気がした。
 数瞬後、今度は逆に風が吹き付けてくる。どこかで嗅いだ覚えのある清涼感のある匂いが、良太郎の脳裏に、昔訪れたことがある陽光射す深い森の光景を思い出させた。
 「ん~、9時半か。久間君、このあとご飯食べがてら話したいんだけど、時間大丈夫かな?ちゃんと家まで送っていくし。」
 藤代の言葉にとりあえず立ち上がってみはしたものの、どうしたものかと何気なく悠を見ると、不安げな顔で良太郎をみていた。
 「……一緒に、行きます。どういうことか知りたいし……。」
 悠が何をしているのか、ちゃんと知りたい。
 そう思い、藤代に頷くと、
 「ご飯、好きなだけ注文していいからね。」
 そう言われ、気を利かせた藤村のそんな言葉が良太郎の笑いを誘ったのだった。
   
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