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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~護り人

    
 「俺たちは、もりびと、という組織に属している。護衛の護に、仮名でり、人と書いて『護り人』。解り易く言えば、ゴーストバスターだ。」
 四人は学校近くの国道沿いにあるファミレスで、良太郎への説明を兼ねて食事を取ることした。悠と藤代が白装束から着替えた時に、火村が用意してあったらしい自分用の新品のシャツを良太郎にくれたので、掻いてしまった汗で風邪は引かなくて済みそうだ。
 「まず、どうしてあの学校で幽霊が出るようになったか、から話そうか。」
 それぞれ食べたい物をホールスタッフに注文し、ドリンクバーで飲み物を取ってくる。良太郎が疲労感で面倒だなと思っていると、
 「久間は、飲み物は?一緒に取ってくるけれど?」
 と悠が気を利かせてくれたので、フレッシュジュースとアイスコーヒーを持ってきてもらう。
 「僕たち『護り人』の間で認識されているのは、幽霊というのは人が生きていた頃の想いの残り、音の残響みたいなものだということ。元々人の魂と呼ばれるモノは『魂魄』から成っていると言われている。」
 藤代は持ってきたカバンからボールペンとメモ帳を取り出すと、良太郎に解りやすいように文字を書き示しながら、説明していく。
 「人は死んだ後、その魂のコア、核と呼べるモノ、『魂魄』の『魂』の部分と、この世界に生まれ落ちてから様々なものと関わり、取り込み、形作られた自我とも言える『魄』の部分に分かれるんだ。」
 メモ帳に書かれた『魂魄』の文字それぞれをぐりぐりと丸で囲みながら、強調する。
 「昔の思想の中には、『魂は陽に属して天に帰し、魄は陰に属して地に帰す』と言っているものもある。まぁ、実際『魂』の部分は場合によっては、また人として生まれてくることもあるらしいけど、そこは謎だね。証明のしようがない。で、問題はこの残りの『魄』の部分なんだけど。」
 そこまで話したところで、ちょうどホールスタッフがガラスボールに盛られたサラダを運んできた。
 悠が取り皿を用意すると、それぞれに軽く取り分けて行く。先に置かれた火村の前の取り皿にだけトマトが入ってないのは、どうやら嫌いだかららしい。
 「久間食べられないものって、あったか?」
 「いや、ないけど……。」
 「じゃあ、サラダ分けちゃうな。どうせ器が邪魔になるから。」
 「……続き、いいかな?」
 藤代の言葉に、サラダに行ってしまっていた注意を引き戻される。
 「で、『魄』の部分なんだけど、どういう死に方にせよ、やがては大地、この世界そのものへ還る。この世界からもらったものだからね。ただ問題は、その魂が死ぬ時に余りに深いマイナスの感情に捕らわれていた場合。」
 メモ帳に、藤代の手でマイナスと書き記された。
 「このマイナスの感情に捕らわれた『魄』の部分、それが今日戦ったような幽霊の正体。人の想いでも、負の感情と言われるもの、怒り、憎しみ、悲しみ、恨み。こういったものはどういう訳か、場所や物に残りやすいんだ。プラスの楽しいとか嬉しいはすぐ消えるんだけどね。」
 食えよ、と火村に勧められた良太郎は、サラダに手を付ける。
 「感受性の強い人間が、霊場や古戦場と言われる場所で、見たり感じたりしてしまうのは、その場に縛り付けられてしまった『魄』が原因なんだ。」
 「でも、どうしてそれが、あの高校に?」
 「先の大戦では一度にたくさんの人が死んだ。無念を残している『魄』は人にマイナスの影響を与える。それをその時の『護り人』達がまとめて、ああいう場所に眠らせたんだ。思春期の子供のプラスの感情はとても強くて、それに感化されて大地に帰っていくはずだから。」
 はずだったんだよ、と言うと藤代は、グラスに入った水で唇を湿らせた。
 「『魄』はもとは人の一部を成すものだったから、今回は『護り人』の術の力を上回る人の想いに影響されたんだ。いまの人の社会の影響というべきかな。」
 「……人の社会から、夢や希望がなくなってきてるから。この国の人間が絶望して、生きることに疲れ始めている。そういう感情が昔、無念のうちに、国を想って亡くなっていった人達の眠りを覚ましてしまったんだ。」
 良太郎の隣で、黙ってサラダをついていた悠が寂しそうな顔で、そう言った。
 「『護り人』では、今回みたいなケースは今後もさらに増えていくと予測している。学生にあんなマイナスの感情を巻き散らかされたら堪らないからな。その時はガス抜きするみたいに、ああやって形を無くして、術で大地に還す。」
 サラダを食べてしまった火村がそう締めくくった。
 「……簡単に言えば、人に悪いことをしてしまうかもしれない幽霊を成仏させてる?」
 「まぁ、そうだね。ざっくり言えば。」
 「で、それを鎮守とあなた方がやってるってことですか?」
 良太郎の言葉に、三人が三人共に頷いた。
 「お待たせしました。和風ハンバーグ定食のお客様~。」
 ホールスタッフの足音がして、その時になってようやく注文した料理がテーブルに並べられ始めた。他の客もまばらになってきたせいか、次々に運ばれてくる。
 「僕、久間に謝らないといけないことがあるんだ。」
 余りの空腹感に、黙々と良太郎が大盛りのライスと牛肉の塊を交互に口に運んでいると、悠がそんなことを言ってきた。
 「僕が痴漢に遭った日があっただろう?」
 同じように黙って箸を動かしていた火村と藤代の動きがその台詞に驚いたのか、ピタッと止まり、悠の顔を見る。
 「あの日より前に会ってるっていうか、見られてるっていうか……。」
 「あれより前に?クラスの自己紹介とかじゃなくて?」
 「……中庭の桜の木。あそこで『魄』を抑える為に術を使ったんだけど、そこでキミに見られてしまった。でも、忘れてもらったんだ。僕が僕であることを認識できないようにする結界を中庭に張っておいたから、久間は覚えてないはずだ。でも、今なら思い出せる。」
 「中庭の桜の木……?」
 悠が痴漢に遭ったのは四月の始業式の次の週だったはずだ。その前に中庭の桜の木で会ったのは……。
 良太郎が忘れ去っていた四月のあの日の光景が、不意に頭の中でその色さえも鮮やかに蘇る。
 
 薄紅色の花枝が広がり、そこから不規則に揺れながら、止めどなく、はらり、はらりと舞い降りる桜の花びら。
 濃紺のブレザーに灰色のスラックス姿で、良太郎と同じ性を持つはずなのに、その整った顔立ちはどこか寂しげで、でもとても綺麗で儚げだった。
 そばに行って、その頬に触れてみたいと思えるくらいに……。

 「……え、あ、まじかよ……。」
 良太郎の箸の動きが思わず止まる。
 あの時、あの桜の下にいた人間が、現実離れした光景の中にあったと知っていても、どうしてもまた再会したいという、自分でも何故だか分からない想いに突き動かされて、探した相手。しかし、悠に言われる今まで、自分がその人物を探していたということすら忘れていた。
 しかし、思い出してみれば、自分の横ですまなそうな表情で浮かべて、自分の顔を見る悠がその探していた相手だと判る。
 確かにいつも掛けている黒縁メガネを外した横顔は、あの桜の木の下の彼と同じだ。
 探していた相手が実は自分自身の身近に常にいたという事実と、今頃になって蘇る自分の想いが良太郎の心を落ち着かなくさせる。
 あれだけ非日常かつ幻想的な光景だったのに、そこにいたのと同一人物の前に、今はタルタルソースが掛けられたエビフライ定食が置かれているのだ。
 「思い出したか?ゴメンな。キミの心と記憶を勝手に操作した。あの日のことを憶えていられないように。」
 「……他には?他にもあるのか?」
 あの光景と共に、あの時、自分が悠の姿にどう思っていたのかすら思い出してしまい、その自分の感情に落ち着かず、少し怒ったような口調で悠に訊いてしまう。
 「直接働き掛けるようなのはあの時だけだけど、そのせいで、今日また僕の張った結界を通り抜けてしまったというか……」
 歯切れの悪い返事が悠から聞こえてくる。
 「今日、学校の敷地に入ったあたりで、帰りたくなるようなすご~く嫌な気分になったはずなんだけど?」
 藤代の説明に、確かにそうなったと良太郎は頷いて見せた。しかしそうなると、あの時の気持もそういう風に操作されたものだということになるのだろうか。
 「本当なら敷地に入る前に帰ってしまうはずなんだけど、久間君が以前にハルくんの張った結界に触れて、彼の力に慣れてしまっていたから、敷地の中まで入れてしまったんだよ。」
 「じゃあ、前に中庭の桜のところで鎮守を見ていなければ、その術に掛かることもなく、今日もあんな目に遭わなくて済んだってことですか?」
 「まぁ、そうなるね。」
 「仕方ないだろう、不可抗力ってヤツだ。そもそもお前が中庭の桜なんて気にしなければ、鎮守の術に掛かることはなかったんだ。それに鎮守はお前や他の人間の平穏な日常を守ろうと術を掛けたんだ。怒るのはお角違いだぞ。」
 良太郎のぶつけた疑問を藤代は認めるも、火村が正論で撃ち落とした。
 「で、もう一つの本題の方なんだが、久間良太郎。お前、『護り人』にならないか?」
 火村の言葉を脳が理解したのか、良太郎の口の動きがピタリと止まり、しばらくしてから何事もなかったかのようにまた動き出す。
 「火村さん、それはちょっと、」
 「資格はある。体力もある。度胸もある。なら、とりあえずスカウトしておくべきだろうよ。」
 悠の止める言葉を途中で遮り、火村は満たしている条件を順に並べて行く。
 「その資格っていうのは、なんですか?」
資格というが、良太郎にはそんな怪しげなものを取った覚えはない。
 「……五行思想って解るか?古代中国の思想で、『互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環する』というものだ。その考えからすると、大地に立つ『人』は『木行』の気を持つ。そしてたまに俺達みたいに『木行』以外の気を併せ持つ者がいる。それが『護り人』の資格だ。」
 「でもそんなのどうやって判るっていうんですか?」
 「あの学校に人が入ってこないように、掛けていた結界を抜けられたのがその証拠だ。あれは人の『木行』の気に作用して入って来られなくなるものだ。それを抜けて来られるのは『木行』以外の気を持つ割合が多い者だけだ。」
 それに、と火村が続ける。
 「普通の人間なら、『魄』気の塊のあれには触れることも出来なければ、攻撃することも出来ない。お前に貸したのは、確かに『御神木』と言われた木から作り出したものだが、実際に自分の『気』を乗せることが出来なければと倒すことは出来ない。」
「久間君、度胸は据わってるよ。幽霊に襲われて、失神せずに逃げ出せるだけでもすごい。」
 「藤代さんまで、妙な煽り方しないでください!」
 「鎮守、早くお前食べた方良いぞ。あんまり遅いと親御さんうるさいんだろ?」
 「そうですけど……。」
 火村に促された悠が仕方なく、また箸を動かし始めた。
 「今日あんな目に遭った人間が、落ち着いて話聞ける訳がないのに……」
 「まぁ、それもそうだな。いきなり悪かったな。ほら、冷めないうちに喰え喰え。」
 
 車で悠を先に自宅へと送り届けた後、一駅離れた良太郎の家へと向かっている。乗っている車は学校の駐車場に一台だけあった、あのワンボックスのワゴンだ。
 ワゴンに入っている会社の名前は『護り人』の組織のダミー会社だと言う。確かに清掃会社の車なら、どこにあってもそれほど怪しまれることはないだろう。
 「鎮守は『護り人』?になってどれくらいなんですか?」
 車の外を眺めながら、良太郎がそう尋ねると、藤代の答えが返ってきた。
 「会ったのは、中学二年から三年の間の春休みだったかなぁ。『護り人』としての仕事するようになったのは、高校生になってから。さすがに義務教育のうちにはさせられないしね。」
 「じゃあ、俺より付き合いは長いんですね。食べ物の好き嫌いを覚えるくらいは親しいみたいだし……。」
 「そうかな?」
 良太郎の言葉の中に含まれた微妙な鬱屈を聞き分けたのか、藤代が訊き返す。
 「学校じゃ、あんなにはっきり笑わないし、外に感情も出さないですから。」
 良太郎と悠の家は、実は電車でひと駅しか離れていない。車だと10分も掛らずに良太郎の家へと着いてしまうのだ。
 「メシ、ご馳走様でした。」
 「こちらこそとんでもない経験させて、悪かったな。まぁ、気が向いたら連絡してくれ。」
 開けた車の窓からの火村の言葉に返事はせずに、頷いておく。いまは良太郎の頭も心もいっぱいいっぱいだ。体力だって限界だし、早く風呂に入りたい。
 「聞こうと思っていたが、そもそもお前どうして、あんな時間に学校にいたんだ?」
 火村と藤代にすれば、中庭で遭遇した時から疑問だったことなのだ。
 『護り人』の方から、学校側には連絡しており、生徒も職員も完全にいない状態になるように手配してあったはずだからだ。
 良太郎にしてみれば、まさか正直に悠が気になったからあとを追い掛けたとも言えずに、
 「ちょっと忘れ物して……。」
 駅のホームで柔道部員達に誤魔化したのと同じように、答えるしかなかった。
 「ふうん。なるほどな。」
 火村が暗がりでも判る程に、良太郎へニヤリとした笑みを浮かべて見せた。
 「だったら、今日のことは偶然じゃないかもな。」
 「えっ……」
 「こういうのをなんていうか知ってるか?」
 良太郎が黙って首を横に振ると、火村は人の悪い笑いを浮かべたまま、こう言い放った。

 「それはな、『運命』っていうのさ。」
   
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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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