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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~選択(1)

    
 「……おはよう。」
 「よっ。」
 いつもと同じ時間の電車に乗り込んできた悠が、いつもと同じように良太郎の前に立つ。それでも、非日常に巻き込んだことに後ろめたさを感じているのか、視線を合わせた悠の表情が少し硬い。
 幽霊とバトルなんていう、普通はまず体験できないような夜が明けた次の朝。普段使わない部分の筋肉まで使ったせいか、良太郎は身体のあちらこちらが筋肉痛になっている。それに若干寝不足気味だ。実際、目覚まし時計だけでは起き切れずにいると、六歳年上の兄が叩き起こしに来た。
 思わず良太郎が欠伸を噛み殺すと、ごめん、と言う悠の言葉が聞こえた。
 「あ~……」
 どう返していいか判らずに、結局良太郎は誤魔化すような苦笑いを浮かべる。
 「不可抗力ってヤツだから、そんなに気にするなよ。火村さんも言ってただろう?」
 「……でも、」
 「あんまり、公共の場所で話していい話題でもないんじゃないのか?」
 顔を傾けるようにを少し首を屈めると、そう悠の耳元へと低く潜めた声で囁いた。いつもと同じ、少しだけ甘さ覚えさせるような石鹸の匂いが良太郎の鼻をくすぐる。
 良太郎に不意に耳元で囁かれたせいか、ピクンと悠の身体が震える。
 「まぁ、そうだけど……。」
 「聞きたいこともないわけじゃないから、あとで教えてくれよ。」
 また潜めた声で良太郎がそう囁くと、悠が小さく頷いた。
 
 昼休みになって、良太郎が悠に連れて行かれたのは、図書準備室だった。図書室の隣にあり、窓が北向きにあるせいで他の教室よりは大分涼しい。難を言えば、古い本の匂いがするくらいか。
 「司書の先生は、お昼は食べに行くこと多いから、ゆっくり出来るんだ。」
 コーヒー飲むか?という悠の言葉に頷くと、隅に置いてあるポットから、リユースの樹脂のカップに淹れてくれた。
 「で、聞きたいことって?」
 「『護り人』の仕事って金もらえるのか?」
 現実的な話に、悠の顔に少々飽きれたような表情が浮かぶ。
 「……コンビニやファミレスでバイトするよりは高い。実際、大学生の火村さん達はそれで生活してるはずだ。特殊能力が必要っていうだけで、そんなに危険な訳じゃないから、それほど高額でもないけどな。基本的に二人以上で行動するし、個人の処理能力でどれくらい処理出来るか変わるから、能力以上にさせられることもない、はず。」
 「なるほどな。」
 「例えば、この学校の『魄気』を監視し、何かあった時には対処する。これを、火村さん、藤代さん、僕の三人のチームで継続的に担当する、といった風にだ。まぁ、僕はそのうち二人とは別々に仕事するようになると思うけどな。」
 「どうしてだ?」
 「藤代さんと僕の能力は似ているから。ひとつのチームに同じ種類の術者ふたりより、もう一人、別の能力者と組ませた方が、チームが増えるから全体の負担が減る。」
 ということは、火村と藤代のセットのように、悠が誰かとセットでチームを作るということになる。
 「……それで、俺をスカウトしたとか?」
 悠が箸の動きを止めると、どうかな、と考え込むような顔をする。
 「ゲームで言えば、僕が後衛になるから、身体能力の高い人が前衛をやることになると思うけれど……相性やバランスが大事だしな。キミが『護り人』になれたとしても、同じチームになるかどうかは判らない。」
 でも、スカウトした手前、しばらくは火村さんや藤代さん預かりだと思うけれど、と付け加えた。
 「俺も『護り人』になれば、あの魔法みたいなのが使えるようになるのか?」
 「術はその人の持つ『五行』、『木』『火』『土』『金』『水』のどれをどれくらの割合で持つかに依る。それにあくまでも、この世界そのものの力を借りて行うものだから、それぞれの『御霊』と契約しなければならない。相性が悪ければ、契約が出来ない。契約できなければ、術は使えない。」
 「『御霊』?」
 「ゲーム的にいえば、『精霊』だな。」
 「……なんか、本当にRPGっぽいな。」
 「藤代さんがゴーストバスターだって言ったじゃないか。それにこの時代の科学ではまだ解明しきれてないモノと、剣と魔法で戦っているってふうに考えられなくもないだろう?」
 「ははっ。なるほどな。」
 ゲームのキャッチコピーみたいな悠のセリフが良太郎の笑いを誘った。
 「……本当のことを言えば、久間にはやって欲しくないな。」
 「どうして?」
 ふと洩らされた言葉に良太郎は軽く訊き返してしまったが、悠から返ってきたその言葉は随分深刻な響きをまとっていた。
 「僕に関わったことで、誰かが不幸になるのは嫌なんだ……。」 


 あれから十日程が過ぎた。生物実験室の幽霊騒動は、その後怪音を聞く者も幽霊の姿を見る者も現れず、生徒達の口に話題としてのぼることはもうほとんどなくなった。また忘れ去られた頃にお決まりの怪談か七不思議にでもなるのだろう。
 『護り人』にスカウトされたと言っても、余り乗り気ではないらしい悠がその話を良太郎に振ってくることはなく、良太郎自身からの連絡を待っているのか、火村も藤代も接触してくることはなかった。
 非日常的な体験をしたからと言って、良太郎に人が見えないものが見えるようになった訳でもない。ただ、良太郎がごく普通の高校生として暮らしていた空間で、また別の人間がそれを守る為に活動していたことを知ってしまった。
 「この世界が、実はとてもギリギリのバランスの上に保たれている世界で、誰かがそれを維持する為にしなければいけないことをしている。ただそれだけのことなんだ。」
 これはなぜ悠が『護り人』をやっているのかと良太郎が訊いた時に返ってきた言葉で、同い年の人間の口から出てきたものとは思えず、しばらくの間、それはおき火のように良太郎の頭の片隅で燻り続けた。
 
 「あいつは来ないのか?」
 白装束と草履に着替えた後、校庭に向かって歩いていると火村が悠に訊いてきた。
 「久間のことですか?」
 ああ、と火村が頷いた。藤代も気にしているようで、悠の方を見ている。
 「来るも来ないも、本人が『護り人』になるって言ってないですよ。」
 「ふうん。いろいろ聞かれなかったのか?」
 「聞かれましたよ。最初に報酬のことを聞いてきたのが、ちゃっかりしてるっていうか、今時の高校生っていうか……。」
 悠のその言葉に、藤代が楽しそうな笑い声を上げた。
 「柔道やってるっていう割には、それだけって感じでもなかったものね~。髪形もお洒落さんだったし。顔も派手な造りじゃないけど、地味に男前だったし。」
 「一応、部活を優先させてはいるみたいだから、無理はしてないみたいですけど、成績も中の上くらいはキープしてるし、うちの高校に入れるくらいだから、頭はいいですよ。授業で解らないところはすぐ訊いてくるし。」
 悠と良太郎の通う高校は、このあたりでもトップクラスとは行かないまでも、それなりの進学校として知られている。部活動もそれなりに強い部もあって、今年は柔道部もそこに加わっていた。
 「あれでも柔道でそれなりに活躍してるんですよ、あいつ。一年からよく表彰されていたくらいだから。だから部の顧問の先生も髪は好きにさせてるみたいです。」
 「勉強、教えてやったりしてるのか?」
 「たまにですけど。」
 「柔道でオリンピック目指してるとか?」
 「どうなんでしょうね。この前、進路調査の用紙見て、唸ってました。オリンピック目指すとか、そういう風でもないみたいですし。」
 「普通に無難な人生送るタイプだよね、あの顔は。」
 「今まで『護り人』にスカウトされた人だって、全員が全員『護り人』になったわけじゃない、ですよね?」
 「まぁな。」
 話しているうちに、校庭と校舎の境目のあたりまで来てしまう。
 今夜来ているのは、悠の高校より電車で二駅、車で20分程離れた場所の私立高校だ。悠の高校より学力はかなり低く、素行も余りよろしくなかったりする。
 「もう、人は残ってないですよね?」
 「さっき、校長に挨拶したときに、時限式結界張っておいたから、もう誰もいないはず。」
 悠の問いに、藤代がそう答えた。
 「なんでしょう、なんか妙な感じが……。」
 「校長の話だと、ここ一週間でラップ音がするくらいまで、急に悪化したようだから、それかな。」
 「『開封』してみれば判るだろう。」
 火村が校舎の壁に、武具一式の入った革のバッグを立て掛けると、中から悠の使う漆黒の錫杖を取り出す。
 悠が受け取ると、先端の大きな輪の欠けた切り込み部分から、自分の下げていたバックから取り出した白い木製の輪をいくつか通した。
 「あまり処理の間が開かないと、形代が足りなくなっちゃいますね。」
 「高校生でブレスレットたくさん付けるのもなぁ。」
 「そうなんですよ。」
 術によっては本人に何かしらの負荷が掛かるものがある。それを普段から身に付けて、自分の『気』をまとわせたもので身代わりにする。悠が使っているのは白木の腕輪で、それを錫杖に取り付けて形代にしている。
 普段つけている分には、一見地味なブレスレットにしか見えないから、人目を引くこともない。
 「じゃあ、始めようか。」
 藤代の言葉に悠が頷く。そして、その形の良い唇が力ある『言霊』を紡ぎ始めた。
 「風よ、風の御霊よ!空の奥底、天翔ける、汝ら風の御霊よ!」

 良太郎の携帯の画面に映し出された一通のメール。アドレスを悠に聞いたのか、差出人は火村だった。
 メールに書かれていたのは、時間と場所だ。場所は良太郎の通う高校より、さらに電車で二駅行ったところの私立高校だ。
 今日の柔道部の活動は、顧問の都合でいつもより30分早く終わった。良太郎が前もってそれを悠に伝えると、
 「ごめん、今日『護り人』の仕事があるから、一緒に帰れないんだ。」
 と、すまなそうに謝ってきた。それで今日は久しぶりに、両親と一緒に夕食を取るハメになったのだが。
 多分、今夜の『護り人』の活動場所と集合時間なのだろう。
 恐らくは火村から良太郎へのメッセージ。来るつもりがあれば、来いという。
 見上げれば、居間の壁に掛けられた時計の針は、19時45分を示していた。今から家を出れば、確か20時過ぎの電車に間に合うはず。滅多に乗ったことのない時間だが、数日おきに眺めている時刻表にはあったはずだ。
 
 「それはな、『運命』っていうのさ。」
 「この世界が、実はとてもギリギリのバランスの上に保たれている世界で、誰かがそれを維持する為にしなければいけないことをしている。ただそれだけのことなんだ。」

 火村と悠の言葉が良太郎の頭の中で、じわじわと訳の分からない焦燥感をもたらす。
 別に、ここで良太郎が『護り人』にならなければならないわけではない。ならなければ明日にでも世界が滅びてしまう訳でもない。
 中学でバスケットを辞めることを決めた時も、進学する高校を決めた時も、自分で決めたが、その時もよりも、もっと悩んでいる気がする。
 バスケットを辞めたのは、良太郎に対するキャプテンのネチネチしたイヤミな行動と性格に我慢ならなくなった為だし、今の高校に決めたのは、自分の努力できる範囲で最善の選択肢だと思えたからだ。
 毎日流れるニュースは、大人達の社会の腐ったようなエゴと金にまみれたものばかりで、やがて出なければいけない社会が実はそんなものでありふれたところだと思春期に悟ってしまうと、あとは出来るだけこじんまりと自分なりに幸せに生きるか。良太郎はいつの間にかそう考えるようなっていた。
 中学の中途半端な時期からたまたま始めた柔道は、持って生まれた体格の良さというアドバンテージもあって、それなりの成績を残している。かと言ってオリンピックを目指すかと言えば、良太郎にとって多分それはない。
 スポーツ選手で一時期活躍出来たしても、その期間は短く、それが終わったあとの生活で苦労するのは目に見えている。引退後にテレビでちょっと頭の悪いキャスターやタレントとして扱われるのを見ると、それは我慢ならない。
 だったら、柔道はそこそこで、ちゃんと勉強して、進学して、安定した収入を得て、ほどほどで結婚して、家庭を作る。そう、漠然と考えていた。夢も希望も持つことは、大人達に砕かれてしまったのだから、せめてそれくらいはいいだろう。
 それが、たまたまあの日桜の木の下で悠の姿を見てしまったせいで、良太郎は自分の世界の外側で起きていることを垣間見てしまい、その身に体験してしまった。
 例え『護り人』になることを選ばなくても、悠との関係は変わらないだろう。悠自身が良太郎が『護り人』になり、そのせいで不幸になってしまうことを厭うているのだから。たぶん表面上は以前と変わらずにクラスメートとして接してもらえる。
 しかし、『護り人』である悠と『護り人』にはならなかった良太郎の間には、共有できないモノが間違いなく一つ増える。
 どうにもならないことなのだろうが、でも、それに一番ムカツいていた。
 目立たないように控え目にしてはいるけれど、悠と会話したときのテンポの良さや知識の広さや深さが、良太郎にとっては心地良い。
 これからはそんな会話も薄皮一枚程度の、不自然に取り繕った感が出てしまう。いや良太郎自身がそう感じてしまうのが否定出来ない。
 すべて、『護り人』に関わるが故に、だ。
 
 今どきの平凡で平穏でありたい高校生には、酷な選択だ。
 『この世界を守る』
 だから言って他人には言えず、理解されず、あからさまに賞賛される訳でもなく、得られる報酬もそれほどのモノではない。
 時計の針が進むに連れて、良太郎の中でチリチリとした焦りだけが増していく。
 しかし思い浮かべるのは、悠の顔ばかりで、結局自分は悠と距離が開いてしまうように感じてしまっているのだ。
 今夜、行かなければ。

 パチンと音を立てて、携帯を折りたたむと、良太郎は階段を駆け上がった。自分の部屋へと入ると、シャツとワークパンツへと着替える。
 「ちょっと、出掛けてくる!」
 『結局これじゃあ、あの男の思うツボじゃないか。』
 そう思いながら、家族へ声をかけると良太郎は家を飛び出した。
   
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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