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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~選択(2)

   
 「……我、恐き恐きもの申す。此処にひと時眠りし古き心の欠片、その眠り呼び覚ますものなり。我が言霊に従いて、ひと時の眠りより覚め給え、御身ら日出づる国守るが為に果てし兵たちよ。」
 この前、自分の通う高校でやった時と手順は変わらない。
 『魄気』を半実体化させ、一度形を失わせてから、浄化し大地に還す。それでもこの地で眠らされた過去の『想い』は一度二度の浄化では浄化しきれない程に深く強い。
 それは先人達がいかにこの国を信じ、未来を思い、家族を愛していたのかを悠に思わせた。どこかで歯車の狂ってしまったこの国の社会は、未来を担うべき今の若者に絶望を与える。

 もっともそれは自分も変わらないのだけど……。
 軽く頭を振り、余計な雑念を払う。意識を澄ませ、自分の意思を強く持つ。術者が他者の思いに引き摺られるのは、自分の身を危うくするのだから。
 
 『ウオォォォォォ』
 「……来たか。」
 火村の呟きと同時に、街路灯の明かりの外側に白くぼんやりとした人影が幾つも浮かび始めた。
 ふらり、ふらりと覚束無い足取りながらも、ゆっくりと三人の方へと向かってくる。
 「えっ……、」
 「まずいな。」
 「……すでに憑依された生徒がいたみたいだね。」
 半透明な幽霊兵士の背後から、学ラン姿の高校生と思しき姿が七、八人向かってくる。こちらは意外にもしっかりとした足取りだ。
 「憑依されてるんですか?」
 「時限式結界を張った時には、すでに憑依されたあとだったんだろうな。」
 いつもの柔らかい口調ではなくなった藤代がそう言うと、すぐに『言霊』を紡ぎ始めた。
 「憑依した『魄気』はその憑依した相手の身体を自分のもののように使う。一度戦闘不能にしてからじゃないと、あの濃度の『魄気』は引き剥がせん。」
 「はい。」
 「しかも、あの時代だとまだ刀が標準装備だ。得物を持ってるやつは気を付けろ。マジで切られるからな。手に負えなさそうなのは、術で縛り上げるなり、押し返すなりしろ。攻撃系の術は使うなよ?憑依されてる連中が死ぬ。」
 火村の捲くし立てるような注意事項の向こうで、藤代が補助系の術を紡ぎ続ける。
 「……風よ、我らがまとう風の衣と成りて、まといし我らに仇為すもの、仇為すことより護らんこと、我、ここに汝らに願う者なり。」
 巻き起った風が、三人の服の端をゆったりとはためかせた。
 「……風よ、いまここに彷徨いし、我らに仇為さんとする者、戒める鎖と成れ。」
 一瞬後に乾いた音を立てて、藤代の持つ錫杖の先から、形代の輪が二つ砕け落ちた。
 「……さすがにこうも広いと、負荷がキツイ。」
 そう言いながらもこちらへ向かって来る幽霊兵士すべてにきっちりと術は発動したらしく、実体の有無に関わらず、幽霊兵士の動きが鈍くなった。見えてる数だけでも二十体近くいる。
 『ウオォォォォォ』
 最初の一体が、火村に向かって襲い掛かった。
 「ハッ!」
 『気』を乗せた木刀で袈裟掛けに叩き斬る。
 前回より濃さの増した『魄気』は火村の手により鮮明な手応えを残した。
 「ハイヤッ!」
 悠に近付く幽霊兵士に、悠の錫杖が右の下段から左肩へと振り抜かれ、さらに返す動きで、左から横なぎに振られる。
 音もなく、四つに分かれた幽霊兵士の身体は、そのまま輪郭を薄くしながら、地へと落ちた。
 「持久戦だ。あんまり気張るな。」
 「……はい。」
 悠に返事に頷くと、火村は木刀を構え直すと、幽霊兵士の群れのなかへと突っ込んでいく。
 「あいつが撹乱出来てるうちに、数を減らす。」
 藤代の言葉に、悠がもう一度頷いた。

 幽霊兵士の間にも序列でもあるのか、憑依された方は、なかなか前に出て来ず、火村が戦闘不能までに持っていけたのはまだ三体だけだ。
 すでに時間は三十分は過ぎているだろう。
 「ハァッ!」
 ガツン!と火村の木刀と幽霊兵士の刀が噛み合う。
 「なんで、学校に木刀だの、角材だの、あるんだよ!?」
 憑依された生徒達のほとんどがそのどちらかを手に持ってる。木刀だろうが、角材だろうが、殴られれば痛いし、鋭く尖っていれば切れてしまう。しかも濃い『魄気』のせいか、亡霊たちの思い込みのせいなのか、実際の刀の様に切られれば切られてしまうオマケ付きだ。
 実際、火村は浅い傷とはいえ、デニムの腕や腿が紅く染まっている。
 「藤代さん!?」
 背後から藤代を呼ぶ、悠の悲鳴のような声が聞こえた。
 「くっ、」
 力を込めて、噛み合っていた刀を打ち払うと、大きく背後へと跳び、退く。
 「大丈夫か!?」
 「なんとかね……」
 片膝付いた藤代の呼吸が荒い。
 「二回も広範囲で、捕縛術使ったから……。」
 火村が見ると、藤代の錫杖の先にあったはずの形代は、残り三つになっていた。

 ギリギリ間に合った電車になんとか乗り込み、降りた駅からはタクシーに乗った。
 勢いで家を飛び出てきてしまったが、良太郎は降車駅を知ってはいても、肝心の私立高校がある場所を正確に知らない。電車に揺られているうちにそれに気が付いた。
 駅で誰かを捉まえて場所を聞くより、タクシーに乗った方が早い。駅からそんなに遠い場所でもないはずなのだ。電車の中で確かめた財布の中に7千円は入っていたから、多分それで間に合うだろう。
 ジリジリとした焦燥感と得体の知れない昂揚感に、自分の心臓が激しく脈打っているのが判る。柔道の試合の時とは全然別の感覚だった。
 「着きましたよ。」
 運転手に告げられた金額は、千円札1枚で足りるものだった。徐々に落ち着き始めた頭は、忘れずに釣りを受け取るくらいには冷静になってきている。
 良太郎はゲートの鉄柵に手を掛けると、身軽な動作で向こう側へと身体を躍らせる。すぐにそれほど離れていないところに、あの清掃会社の名前の入ったワゴンが止められているのに気が付いた。
 じわじわと込み上げてくる逃げ出したくなるような不安な気持は、『結界』とやらの作用なのだろうか。
 そう思いながら、良太郎は耳を澄ませ、暗闇に眼を凝らす。
 多分、ゲートからは直接見えない場所で、やっているはずだ。近くまで行けば、音なり気配なりがするはず。
 そう考えた良太郎は、暗闇へと向かい走り出した。
 
 校舎の影の方へと向っていくに連れて、良太郎の肌に伝わる異様な気配は徐々に強くなってきている。
 このまま進めば、恐らく三人に出会えるはず。
 そう思いながら、歩いていた時にその光景が目に飛び込んだきた。
 学ラン姿の生徒と木刀で遣り合う火村の後ろ姿。
 黒い錫杖を構えて、やはり学ラン姿の生徒と対峙する藤代。
 そして、あの白装束姿で、両手の錫杖で刀を持った学生と押し合う悠の横顔。
 黒縁メガネのない顔は、汗を滲ませ、苦しそうな表情を浮かべている。
 いざ来て見たものの、実際に幽霊兵士と戦う三人を見ると、良太郎はその伝わってくる緊迫感に、それに加わるべきなのかためらってしまう。しかも相手はなぜか学ランの学生の姿をしている。
 その時、藤代が力負けしたのか、徐々に押され膝を着きそうになった。
 「風よ、吹き荒ぶ風の壁と成りて、我が前に立ち塞がりし敵、吹き飛ばせ!」
 そう叫ぶ悠の声が聞こえた。すぐに音を立てて風が吹き荒れると、悠の目の前の敵を数メートル後方へと退けた。
 踵を返すと藤代に加勢し、その相手の肩口へと強かに錫杖の柄を叩き込む。
 吹き飛ばされたはずの学ラン姿の生徒が、意外な素早さで悠へと迫った。
 そして、その手には緩く弧を描く刀。
 悠は背を向けて、迫る凶器には気が付いていない。
 「……ハルッ!ハルカッ!」
 良太郎は名を呼ぶと、一気に走りだした。
 
 聞き覚えのある声に振り向くと、悠は自分を狙って振り上げられる刀の姿が視界に飛び込んできた。
 「風よ、我が前に立ち昇りて、我守る盾と成れ!」
 錫杖を構えながら、咄嗟に防御の為の盾を創り出す為の『言霊』を紡ぎ上げる。
 文字通り、術者の足元から見えざる大気の壁を作り上げるこの術だと、術者の足元と頭ではほんの数瞬の時間差が生まれる。
 『……これは、間に合わないっ!』
 自分に向かって振り下ろされる刀の予想される軌跡が悠にはスローモーションで見えた。
 思わず、目を瞑ってしまう。
 刃物で切られた経験なんてある訳ない。いままで体験したことのない痛さを予想して、身体が緊張する。
 ハルカッ!
 自分の名が再び呼ばれたその瞬間、悠は何か体当たりされた堅い感触を感じ、その何かに巻き込まれるように押し倒された。
 
 『い、いた……くない?』
 恐る恐る目を開けると、暗い中でも青と白のチェック柄が見て取れた。それに嗅いだことのある匂い。
 『お、重い……。なにがどうなった?』
 「久間君!」
 悠の耳に飛び込んできたのは、藤代の、久間の名を呼ぶ声だった。
 「えっ……、」
 首を捻って見ると、悠の肩に顔を埋めるようにしているのは良太郎だった。避けられるはずがないと予測した刀で切られ、痛むはずの身体なのにどこも痛むことはない。
 「久間……、どうして……、」
 思わず洩れた悠の声に、良太郎の顔が持ち上がり、悠の方を向いた。
 「怪我はないか?」
 目が合った良太郎はそう言うと、ゆっくりと悠の上から身体を退けた。
 「鎮守、終わった。『浄化』を頼む。生徒についてる『魄気』の方は引き剥がすことしか出来ないだろうから、それは『再封印』する。藤代は久間を見てくれ。傷の具合を見て、応急処置だ。軽傷なら『治癒』していい。」
 「えっ、久間、怪我したのか……?」
 「何を呆けている。久間が飛び込んできたから、お前が怪我しなくて済んだんだろうが。」
 それだけ言うと、火村は踵を返し、暗闇へと消えて行った。
 悠が座り込んだ良太郎を見ると、苦笑いを浮かべて悠の方を見ていた。いまの悠と火村の会話が聞こえたのだろう。
 立ち上がった悠が良太郎の背後に回り込むと、シャツの背中が血で赤く染まっていた。シャツが右肩から左の脇の辺りまで切り裂かれている。
 「どうして……、」
 「いま、火村が車回してくるからちょっと待ってね。ハルくん、動揺するのは後でも出来るから、さっさと『浄化』する。その為にキミの形代を残したんだし。呆けたままだと、殴るよ?」
 「は、はい。」
 にっこり笑って、そう藤代が言い放った。
 バラバラになった幽霊兵士のパーツやら、学ランを着た生徒が倒れたまま校庭の方を向いた悠が『言霊』を紡ぎ始める。
 「風よ、風の御霊よ。空の奥底、天翔ける、汝ら風の御霊よ。」
 この前と同じように、ゆっくりと風が動き始めた。
 風が渦巻くに連れて、幽霊兵士の身体のパーツの輪郭が徐々にぼやけていく。
 「……白き清めの風となりて、我望みしこの学び舎より、彼の者らが想い、そのすべて解き放て。」
 悠の前で構えられた漆黒の錫杖の、先端の形代の輪が乾いた音を立てて砕け散った。
 あの時と同じ清涼感を伴った風が緩やかに良太郎にも吹き付けて、それが少しだけ背中の傷の痛みを忘れさせてくれる。
 風が治まったあとには生徒達の姿と、その上に立った幽霊兵士の姿が見えたが、兵士達の姿は随分と薄れていた。
 「土よ、土の御霊よ。数多の命育むもの、腕に抱き眠りもたらすもの、汝ら土の御霊よ。」
 悠が続けて別の『言霊』を紡ぎ始める。
 「傷は深そう?かなり痛い?」
 「切られたのは初めてなので、なんとも……。」
 藤代にはそう答えたが、良太郎自身の興奮が醒めてきたのか、時間が経つに連れてジクジクと傷が痛み始めてきていた。
 「……願わくば我が古き真名と、汝らが主の名と、我らを創り給いし尊き母の御名において、我、此処に汝らに願う。我望し此の古き心の欠片達、汝らが腕に抱きて深き眠りへと誘うこと、疾く成さしめよ。我、現世の護り人、常世への導き手、扉叩き開くものなり。」
 生徒達の上に立っていた幽霊兵士達が悠に近いところから順に消えていく。あとには気を失っているらしい生徒達が剥き出しの土の上に横たわるのみだ。
 暗闇の中を眩しいライトが切り裂いて、火村の運転するワゴンが到着する。
 術を行使した後、ぼんやりと呆けたように立っていた悠が、ライトの眩しさに我に返った。
 「藤代。」
 「ん。クマくん、シャツどうせ駄目だから、切るよ。」
 名を呼ぶと火村が救急箱を藤代へと渡した。受け取った藤代が箱の中から、鋏を取り出すと良太郎に見せながら、ちゃきちゃきと音を鳴らす。
 良太郎が頷くと、すぐに襟の部分から慎重に鋏を入れ、傷口に触れないようにチェックのシャツもカットソーも切り離していく。
 「……!」
 背後で見ていた悠が息を飲んだ。
 「これはまた綺麗に切られてるね。でも皮一枚ってところだから、すぐ治せる。」
 剥き出しにされた良太郎の背中は、鍛えているだけあって筋肉が隆起し、脇腹にかけても引き締まっている。
 「ああ、背骨に沿って筋肉が付いてるから、それだからか。にしても柔道選手とは思えない綺麗な逆三角形だ。」
 少し沁みるよ、と一声掛けると、藤代は消毒を施していく。見守る悠の表情は心配げだ。
 「じゃあ、ハルくん、出番だよ~。」
 藤代と場所を替わった悠が、良太郎の刀創に手をかざすと、言霊を紡ぎ始める。
 「陽よ、陽の御霊よ。汝ら数多成すもの、命の煌きそのもの、汝ら陽の御霊よ。」
 悠の手から光が零れ始める。良太郎の背中にぼんやりとした温かさが感じられ、同時にじくじくとしていた痛みが徐々に消えていく。
 「我が手の内にあるは、愛しき同胞。彼の者が負いし傷癒し、あるべき姿へ返さんと願う……」
   
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テーマ : 自作BL小説
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Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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