--------(--)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~選択(3)


 「なんであんな危ない真似したんだ?死んでいたかもしれないのに……。」
 膝を付いてしゃがんだ良太郎の背中を、悠が濡らしたタオルで拭いている。火村から着替えを渡されたが、血で汚れた身体のままでは着られない。
 タオルを持った悠に水道のあるところまで連れて来られた。
 「気が付いたらああしてたっていうか。よく覚えていない。」
 誤魔化すように乾いた笑いを良太郎が漏らすと、悠が笑い事じゃない!と声を上げる。
 「死んだら、久間の両親になんて説明すればいいんだ。それに、言ったじゃないか、僕に関わることで他人が不幸になるのは嫌だって……。」
 「とりあえず、二人とも生きてるし、良いじゃないか。それに傷は治してくれたし。」
 「当たり前だ。まったく、久間がこんなに考えなしのバカだとは思ってもいなかった。」
 軽く溜め息を吐いた悠が、もういいよ、と良太郎を立ち上がらせた。
 初夏とはいえ、いつまでも上半身裸のままでいる訳にもいかず、火村に渡された長袖のカットソーを着たが、少しサイズが小さいらしく、良太郎には少し窮屈だ。
 良太郎がふと眼をやると、先程到着した数台の清掃会社のワゴンに乗せられる、学ラン姿の生徒達の姿が見えた。
 「『魄気』が濃すぎると人に憑依してしまうんだ。そうなると、戦闘不能にしてから『魄気』を引き剥がすしかない。あとは組織の運営してる病院があるから、そこに運んで検査して、もし何か覚えているようなら、忘れてもらってから家に帰す。まぁ、筋肉痛くらいは残るだろうけど。」
 タオルを洗い終わった悠が良太郎の隣で、そう説明した。
 「久間は……、やっぱり『護り人』になるつもりなのか?」
 良太郎を見上げて、そう訊く悠の表情はやはりどこか不安そうだ。
 全員乗せ終えたのか、一台を残して闇の中を他のワゴンが走り去っていく。
 「俺は、」
 良太郎がその答えを口にしようとすると、藤代の二人を呼ぶ声が聞こえた。
 「撤収するから、ハルくん着替えちゃいなよ。」
 頷いた悠が、開けたままのワゴンのドアからバッグと持ち出すと、白装束を脱いでいく。アンダーシャツの類は着ていなかったようで、滑らかそうな白い肌が剥き出しになった。
 華奢とまではいかないがそれでも細めの身体で、遠くの街路灯の明かりしかない状態でも、綺麗な背中をしているのが見て取れた。あんな錫杖を振り回している割には、肩も腕も細い。
 「くまくん、ちょっと腕と肩動かして見せてもらえる?」
 ぼんやりと悠の着替えを眺めていると、藤代の声が聞こえた。悠の着替えを眺めていたのを、咎められたような気がした良太郎が慌てて藤代の方を振り返る。 
 言われた通り、藤代にグリグリと腕や肩を廻して見せる。
 「痛いところがあったり、違和感があったりとかは?」
 「別にないです。」
 「『治癒』の術だとあのくらいの軽傷なら、跡も残さず治せるから問題ないと思うけど……。」
 「医者の卵としては、気になるか?」
 それまで携帯でどこに連絡を取っていた火村が、そう言って藤代をからかう。
 「ハルくんの力を疑う訳じゃないけれど、ねぇ……。陽の御霊って、五行とは別のモノだから……。」
 「僕が、明日また見ておきます。異常があれば藤代さんに連絡しますから。」
 「そうしてもらおうかな。」
 制服へと着替えの終わった悠がそう言うと、それで良しとしたのか藤代が何度か頷いた。
 「じゃあ、撤収するか。」
 
 事後処理の為に病院に向うという火村と藤代に、先にそれぞれの家まで送ってもらう。
 送ってもらっている間、やはり良太郎以外の三人はこの前より疲れているらしく、言葉数も少なかった。
 「あとで家の住所、メールで送ってくれよな。」
 良太郎にそう言って、悠はワゴンを降りた。ペコッと火村達の方に頭を下げると、門扉を開け、家の中に入っていった。
 「久間。今日来たってことは、『護り人』になるってことでいいのか?」
 外を眺めていた良太郎に火村の声がそう掛かる。
 「……鎮守は、あいつはなって欲しくなさそうですけどね……。今日も無茶するなって、怒られたし。」
 「助けてもらったくせにな。まぁ、あいつはそういうところがネガティブっていうか、先の物事を悪く考え過ぎる所があるからな。」
 軽く笑ったあとに、火村が付き合いが長いだけあって、それなりに悠の性格を把握していることを披露する。
 「先のことをそんな風に悪く考えたら、何も出来ないですよ。」
 「でも、今日のは無茶し過ぎだよ。怪我もたいしたことなかったし、二人とも死ななかったからいいけれど。」
 それまで黙っていた藤代がそう口を挟む。
 「体育会系のヤツはすぐ無茶するんだから。」
 すみません、とここは良太郎は素直に謝っておいた。
 「で、やるのか?やらないのか?」
 ここで本当の理由を正直に話すのは、良太郎でもさすがにためらう。
 まさか、悠との距離が開いてしまうのが、なんとなくムカつくから、はいくらなんでもないだろう。
 「この世界が、実はとてもギリギリのバランスの上に保たれている世界で、誰かがそれを維持する為にしなければいけないことをしている。ただそれだけのことなんだ。」
 鎮守がそう言ってました、と良太郎は二人に告げた。自分の中でおき火のようになっていた悠の言葉だ。
 「それなら、それでいいかな、と。それにカッコイイじゃないですか、世界を守る為に戦うって。」
 良太郎の眼をルームミラー越しの火村の眼が見詰めている。
 「俺、そんなにやりたいことってないんですよ。将来の夢とか希望とか……。別に柔道でオリンピック目指してる訳でもないし、スポーツ関係で食べていくのは大変だろうし。だから勉強してそこそこの大学行って、そこそこの会社に就職して、それなりに安定したお金もらって。今の社会じゃ、それで充分じゃないかなって、そう思ってました。でも、誰かが世界を守らないとそういう幸せもない世界になるんですよね。だったらなってもいいかな~って。」
 良太郎自身、二人に自分の胸のうちを語っていくうちに、本当にそれで良いように思えてくる。
 今の自分達の世代の人間に、他人に熱く語れる程の壮大な夢や希望を持っている者など、本当に少ない。とりあえず、手堅く、確実に、平凡な幸せが手に入ればそれでいい。
 そう考えていたはずなのに、悠と関わりを持ち、火村や藤代と知り合ったことが、良太郎自身の心に少しばかり波風を立てたことも事実なのだ。
 夢も希望も持てない社会の中で、それでも未来に希望を繋ぐ為に、世界を守る。誰かに強制された訳でもなく、だ。悠も火村も藤代も、『護り人』にならない選択肢はそれぞれあったはずだ。
 それにきっと、今夜あの場に行かないで、悠が怪我をしていたら良太郎自身がものすごく後悔したことだろう。だから、今夜あの場所に行ったこと自体は後悔していない。
 人に語ることの出来る夢も希望もない自分だけど、それでも世界は守ることが出来る。
 「本当にたまたま偶然だろうけど、夢も希望もない自分でも世界を守れる。それって結構カッコイイですよね。」
 それに、と良太郎が付け加える。
 「ガッコーの先生も、収入源は複数あった方が良いっていってましたし。」
 最後に良太郎の口から出てきた、やっぱり今時の高校生らしいセリフが、前に座る二人に一瞬唖然とした顔をさせたのだった。

 良太郎はただいま、とドアから顔を出して、居間にいる家族に帰宅を告げた。おかえり、とそれぞれから反応が返ってくる。
 キッチンに近いテーブルでは、会社勤めの兄が疲れた顔で夕食を食べている。風呂上がりらしく、いつもは上げている前髪が濡れ髪のまま額に掛かっていた。両親はソファに座って、テレビドラマを見ている。母親がお気に入りの韓国の俳優が出ているヤツだ。
 自分の部屋へと入ると、チェストからバスタオルと着替えを出し、風呂場へと向かう。
 火村から借りた長袖のカットソーを脱ぎ、洗面台に付けられた大きな鏡へと、自分の身体を映した。
 胸も腹も特に変わったところはない。衝撃を緩和できるはずの脂肪が付き難い体質のせいで、胸板も腹筋も境目がくっきりと分かれているのが見て取れた。
 良太郎は家系的に早熟だったという父親に似たらしく、小学校の高学年の頃から縦にばかりひょろひょろと伸び始めた身体は、兄を追い掛けて始めたバスケットで随分と有利だったが、教師に誘われて始めた柔道のおかげで高身長に相応の筋肉が身体に付いた気がしていた。
 柔道の試合で勝つ為に造り上げた身体は、良太郎に達成感やそれなりの満足感を与えてくれてはいたが、『護り人』になったことで今度は別の意味を持つ様になる。
 偶然とはいえ、今日は悠を守ってやれた。その事実は照れ臭いが、良太郎にとって決して強烈なものではないものの、じわじわとこみ上げてくる様なある種の満足感を与えてくれていた。
 振り向いて鏡に映した良太郎の背中のどこにも今夜の傷は残ってはいない。拭いきれなかった血の跡が薄く残っている気がするが、痕跡としてはそれだけだ。
 夢も希望も持てず、ただ漠然と生きてきた自分とは、今夜限りでお別れかも知れない。
 鏡に映った自分の眼が良太郎自身にそんなふうに思わせていた。
    
スポンサーサイト
プロフィール

水鳴沢

Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
書く気出させてみる?

FC2Blog Ranking

新たなる萌えへの扉
検索フォーム
FC2カウンター
リンク
RSSリンクの表示
QRコード
QR
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。