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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~プール(2)

     
「まったく無茶したもんだ」
 いつもと同じ清掃会社のワゴンに良太郎と悠が乗り込むと、運転席に座った火村が半ば呆れた口調でそう言った。
「……すみません」
 生気に乏しい青白い顔をした悠が小さく謝る。
 二人がシートベルトを付けると、火村がゆっくりとワゴンを発進させた。
「どうせ形代もないのに術式使ったんだろう?」
「……『水気』の術式で『浄化』したから、形代も機能したかどうか解りませんよ。急いでいたから範囲限定もうまく出来ませんでしたし」
 それだけ言うと、悠は疲れたようにシートに寄り掛かったまま目を閉じた。
「鎮守は『木気』以外に『水気』を持ち合わせているんだが、術を使うときは自分の中の『五行』の気を対価として、契約した『御霊』に自分が望んだ現象を起こさせる」
 疑問符の浮かんだ良太郎の表情を読んだのか、火村が前を向いたままでそう説明した。
「『言霊』で場所や相手を限定して、『御霊』に起こさせる現象が物理法則からあまり外れていないものであれば、対価も少なくて済む。だが、そいつは非常事態だからって自分の中の『水気』を『御霊』に大盤振る舞いして『浄化』したって訳だ。それでそんなに消耗してるんだ。一種のバッテリー切れみたいなもんだな」
「三日もあれば元に戻りますよ」
 悠は眼を閉じたまま、口元にだけ薄く笑みを浮かべ、そう火村に答えた。
「今日は久間がいたから、こうやって連絡取れたんだろうが……」
 あの後、ぐったりとしてしまった悠を抱えて救護室に運び、すぐに言われたように藤代に携帯で連絡を取った。 幸いにも携帯にすぐ出てくれた藤代に状況を説明すると、火村や他の『護り人』数人と駆け付けてくれた。
 藤代は事後処理に当たっていて、火村が良太郎と悠を家まで送り届けてくれることになった。
 良太郎としては事情を知るだけに、救護室のベッドに横たわる悠のそばを離れる気にはなれず、高倉と小林のことは菊池と飯塚に送る様に頼んだ。
「あのまま放っておいたら、人が死んでましたよ」
「それはそうなんだが……」
 ワゴンが交差点に差し掛かり、そのまま右折する。シートにもたれていた悠の上半身が遠心力のせいで良太郎の腕に寄り掛かってしまう。
「あ、ごめん」
「いや、辛いんだったら寝てた方がいい」
 そう言って良太郎は手を伸ばしてシートベルトを外すと、支えていた悠の身体を横向きに座席に寝かせた。楽なように頭の下にバッグを枕代わりに入れてやる。
「ありがと……」
 そう言うと、あふっと欠伸のような吐息をひとつ吐いて、悠は寝てしまったのか静かになった。
 しばらく揺られていると、いつの間にか車は通学に使っている路線に沿って走っていた。電車の窓から見慣れた建物や看板が目につく。
「そういえば、鎮守の家の前まで送って行っていいのか?親御さんいるよな?」
「今日は親はいないって聞いてますけど」
「そうか。無駄に厳しいからな、こいつの家」
「みたいですね」
 そんな会話を火村と良太郎が交わしてからほんの数分で悠の家に着いた。悠から聞いていた通り、今日は少なくても親はいないらしく、駐車スペーズに車はなかった。
「ハルカ」
「ん……」
「家に着いたぞ」
「うん……」
 目を閉じて座席に横たわったままの悠は返事はするものの、起き上がる気配はない。
「だから言わんこっちゃない……。鎮守のバッグ、寄越せ。久間、そいつを運んでやれ」
 言われたままに良太郎がそれを渡すと、運転席から降りた火村は勝手知ったるなんとやらとばかりに短い階段を上がると、鍵を使って重そうなドアを開けた。 
「ほら、運んでやるよ」
 そう言いながら良太郎が悠の顔を覗き込むと、
「……ごめん」
 やはり疲れてるのか、済まなそうな表情で悠はそう答えた。
 苦笑いを浮かべた良太郎は車の中に半身を潜らせると、悠の脇に腕を入れ、横抱きにしながら外へと引き出す。
 よっ、と横抱きにした身体は、普段部活で相手にしている連中に比べるとずっと軽ければ、肉付き自体も薄い。乱暴に扱うと壊してしまいそうな気がして、物に当ててしまわない様に慎重に運んだ。
 火村に玄関から誘導されて居間の中に入ると、置いてある革のソファの上に悠を寝かせる。居間の中は熱が籠っていて暑い。
「悪いが事後処理が残っているから俺は戻る。何かあったら連絡しろ」
 エアコンを稼働させると、火村はそう言い残し出て行った。

 ソファの横にしゃがみこんだ良太郎が、仰向けに寝た悠の額に手を当てる。
「……熱はないみたいだな」
「火村さんも言ってただろう、電池切れみたいなものだって」
 心配そうに見詰める良太郎の視線を捉えて、悠がほんわりと笑ってみせた。
「晩飯どうする?家の人、何時頃帰ってくるんだ?」
 居間の大きな窓からは、レースのカーテン越しに西日の赤い空が徐々に夜の青へと変わっていく様が透けて見えていた。身に着けている腕時計を見れば、針は六時を過ぎている。
「……金曜から旅行に行って、火曜まで帰ってこない」
 そういって悠があげた地名は、掛け声を掛けながら巨大な山車燈籠を引いて回る祭りで有名な地方だった。
「お前は行かなかったのか?」
「うん……。正確に言えば、受験生だからって置いてかれたというか……。」
 受験生と言っても、良太郎たちはまだ二年生だ。三年生なら解らなくもないが、そもそも家族での旅行に一人だけ置いて行くというのが、少し変な気がする。
「そうか……。食べに行く元気はなさそうだし、」
「ああ、買い置きの素麺があるから、それでも作って食べるよ」
「なんなら、作ってやるか?」
「有難いけど、まだいいかな。あんまり食べたい気分じゃないし……」
 良太郎の申し出に少し考えた後、悠は首を横に振って見せた。
「とりあえず、俺は一度家に帰る。また後で来るから食べたい物あったらメールくれよ。来る時に買ってくるからな」
 あふ、と洩れかけた欠伸をなんとか堪えた悠を見て、良太郎の顔に優しい笑みが浮かぶ。
 また後でな、とひと声掛けると良太郎は悠の家をあとにした。

 良太郎は自分の家に戻って夕飯を食べた後、コンニビに寄ってから悠の家へとまた行ってみた。
 買って行く物はないかと送ったメールの返事には、桃かチェリーの入ったゼリーがあれば、とあった。コンビニで探すと両方共にあったので、それらと悠が好んで飲んでいるメーカーのミルクティーを買って行く。
 シャワーを浴びたらしい濡れ髪姿の悠にそれを渡すと、ついでに買って来たミルクティーに素直に喜んでくれた。
 キッチンに立つ良太郎の姿を食卓の椅子に座って興味深そうに眺める彼の前には、そのミルクティーのパックが置かれている。
「……なんか久間が台所に立ってるのが意外」
 吹きこぼれないようにガスを調整していた良太郎が、悠のそのセリフに振り返った。
「意外って?」
「いや、甘ったれの末っ子だと思ってたから。てっきり家事は出来ないものだと……」
 良太郎の顔に思わず苦笑が浮かぶ。
「うちの両親の教育方針が、『親が死んだ後に一人でも生きていけるように育てる』だからな」
「ふうん」
「俺も兄貴も家事は一通り出来るよ。ボタン付けも、ワイシャツにアイロン掛けるのも出来るし、魚も三枚に下ろせる」
「へぇ。魚は僕も下ろしたことないなぁ」
 感心する悠の声を背中に受けながら、良太郎は茹でていた素麺の一本を箸で取り、茹で上がりを確かめた。
 蛇口から水を出すと、ザルに鍋の中身をあけて湯切りをし、水で滑りを洗い流す。氷水で締めると、めんつゆと刻んだネギを添えて食卓の上に載せた。 
「今は女の子の方が出来ないっていうし、それだけ出来ればちょっとしたゴハンに釣られて馬鹿な女の子に引っ掛かるってことはない訳だ」
 手厳しいセリフを吐いた後に、きちんと手を合わせて、いただきますを言うと悠が食べ始めた。
「本当ならめんつゆだって、ダシから作れるんだけどな」
「ホントすごいな。うちの弟、炊飯器を使えるかも怪しいのに」
「弟は家事手伝ったりしないのか?」
「親がそもそもやらせてない。というか多分自分達が教えてないっていう自覚すらないんじゃないのかなぁ、あの人達」
 手早く鍋とザルを洗い、水切りラックに並べる。 
「久間は食べないのか。僕一人じゃ食べ切れない」
 良太郎は自分の分のめんつゆを用意すると、悠の向い側へと座った。
 二口ほど味見程度に口に運ぶと、箸を置く。
 良太郎は夕飯を食べて来ているし、そもそも体力を消耗している悠に食べてもらおうと用意したものだ。食べてもらわないと困るのだ。
   
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Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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