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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~過去

   
 風呂上がりのせいで畳が足の裏に張り付くのか、悠がペタペタと足音を立てながら良太郎がいる縁側まで歩いてきた。
 周囲に緑が多いからなのか、田舎の夜は窓を開けていればそれなりに涼しい。
 暗闇の向こうからは何種類か音色の違う虫の声が聞こえてきている。縁側からは月は見えないが、街の中よりは格段に多く見える星の姿が夜空を飾っていた。
「メシの後片付け、言ってくれれば手伝ったのに」
「いいよ、気にしなくても。今回の目的は久間が儀式で無事に『契約』を済ませられることだから。明後日まではお客さんでのんびりな」
「なんか、まるっきり温泉旅館に来たみたいだ。メシも旨いしな」
 良太郎がそう言って笑うと、悠もふんわりと笑った。
 泊る部屋が離れで温泉付き、部屋には小さい冷蔵庫まである。それに来た時にはなかったが、神社から戻ると寝巻きとして浴衣まで用意されていた。
 気疲れさせないようにと、夕食も離れまで運んできてくれた。儀式前は豚や牛は食べないことになっていると悠から聞いていた通りに、和膳の中にそれらは使われていなかったが、それでも十分に美味いと感じられるものだった。
「身体はなんともないか?『龍穴』に反応してたから気になってたんだ」
 良太郎の横に腰を下ろした悠が携帯をポチポチと操作しながら訊いてきた。 
「特になんともない」
「ならいいけどな」
「お前、髪の毛乾かさないと風邪ひくぞ」
 良太郎はインターハイ前にいつもより短くしたからすぐに乾いてしまうが、悠は夏でもそれなりの長さなのだ。首のところにバスタオルを掛けたはいるものの、まだ濡れ髪のままだ。
「何を調べているんだ?」
「ん~、ちょっと……」
 聞いて見ても気もそぞろな返事しか返ってこない。湯上りで少し肌蹴た浴衣の合わせから上気して幾分赤く染まった白い肌が覗き、その上を濡れ髪から滴り落ちた水滴が流れた。
「……拭いてやるよ」
「ありがと」
 良太郎はバスタオルを引き抜いて取ると、悠の頭に被せ、わしわしと手を動かして水気を取ってやる。小さい頃は風呂上がりによく兄がこうやってくれていた。もっとも良太郎が中学生になったあたりで一緒に風呂に入ることもなくなったが。
「……ああ、やっぱり似てるなぁ」
 悠のしみじみとした声に手を止めると、肩越しに携帯の画面を見せられた。
 携帯のバックライトに照らし出された画面に映っているのは、体高が高くて毛足の長い大きな犬の姿だ。
「土師さんがさっき、久間のことボルゾイって言ってただろう?それがボルゾイ。ロシアの方の猟犬らしい」
「……そんなに似てるか?」
「昔、近所の家にいたボルゾイとキミ、目の辺りから鼻筋の通った感じが良く似てる」
 振り返ってまじまじと良太郎の顔を見詰めながら、悠が嬉しそうにそう言う。
「あ、でも犬に似てるって言われても嬉しくないか」
「う~ん、どうだろう」
「性格は従順で繊細。目が知性的。ひとなつっこく、普段は物静かで滅多に吠えることもないって書いてある」
 読み上げたのはその犬種の性格らしい。確かに人の迷惑になるような部分はないように思える。
「あ~、あの子に会いたいな……」
 思い出がそうさせるのか、悠は懐かしそうに言うと両腕で抱えた自分の膝にぐりぐりと額を押し付ける。
「もう死んだのか?その犬」
「ん~、居なくなった。どうやら飼い主が夜逃げしちゃったみたいなんだ。そこの家の人、突然居なくなったから。あのボルゾイも連れて行ったみたいだから、いいんだけどな……」
 賢い犬だったんだ、と悠が続ける。
「……僕の『護り人』の力でも『魄気』を感じたり見たりする方は、小さい頃からあったから、そのせいなんだろうけど、友達いなかったんだ。みんな怖がって近寄って来なかったし、たまにそれを知らない子と仲良くなっても、わざわざ教えるヤツがいて、結局離れて行っちゃって。遊んでくれるような友達もいなかったから、よく学校帰りに寄ったんだ、そこの家。散歩に来た公園でも遊んだっけ。僕が行っても吠えなくてね、いつも優しい目をしてた……。小母さんもお菓子くれたっけなぁ」
 まるでドラマの設定を地で行くような幼少時代を過ごしたらしいが、悠は今まで良太郎にはそれを全然感じさせたことはなかった。当代随一と言われる能力の代わりに支払った対価として納得しているからなのだろうか。
「普通、親なら子供に友達がいないって変だと思わないか?小学生だろ?」
 良太郎のセリフに悠が吹き出した。
「無理無理。うちの親、真顔で『頭の良い子と遊びなさい。』っていう人種だから」
 まさか自分の親がドラマに出てくるような痛い親だとは思わなかった、という悠の言葉がそれ以上聞くことを良太郎にためらわせた。

「……久間、いまさらなんだけど、」
「ん?」
 トイレから戻った良太郎が吊るされた蚊帳の中に入り、清潔なシーツの上に横たわると、隣の布団でゴロゴロしていた悠が改まったように話し掛けてきた。
「知り合ってからそんなに時間経ってないのに、あんなことがあってキミは『護り人』になることを選んだ。そのことはもうグダグダ言わない。キミの選んだことだからな」
「うん」
「『護り人』のことで一緒にいることが多くなったよな、キミと僕。で、こんなこと言うのは正直恥ずかしいんだけど、」
 すでに部屋の明りはオレンジ色の豆球だけで、良太郎が悠の方へと顔を向けても、うつ伏せて枕に顔を乗せるようにしているせいもあって、その顔の表情は、はっきりとは判らない。
「……どのくらいの距離を取ればいいか解らないんだ、なんていうか、その、」
「……友達、としてか?」
 うん、と返ってきた答えは、やっぱり恥ずかしいらしく小さな声だった。
「変なこと言って、ごめん……」
「いや、さっきも言ってたもんな、友達いなかったって……」
「うん」
「ん~、今まで通りでいいと思う。されて嫌だったとか、言われて嫌だったとかはなかったような気がするなぁ」
「そうか。久間から不愉快な感情を感じたことはなかったから、大丈夫だとは思ってたんだけど」
「でもお前、知り合ったあたりは表情固かったよ、そういえば。やっぱり警戒してたか?」
「そうだったのかなぁ。眼鏡掛けるようになる前は男からナンパされること多かったしな」
 初めて会った時に痴漢されてたけど、前にもされたことあったとか?」
 良太郎は悠の力でその前に会っていたことは忘れさせられていたから、あれが最初といえばそうなるだろう。
「たまに、ね」
 悠が苦笑いを浮かべているのが、なんとなく判った。
「あんまり警戒されても困るんだけど、相性が良過ぎるとたまに人の心の声が聞こえるんだ。考えてることが解ったり、その人の過去や未来のことが見えたりも。あの時は、もう本当に気持ち悪くて悪くて。あのリーマンのイヤらしい感情がどんどん伝わってきて……」
 だけど、と悠が言葉を続ける。
「キミが心配して、声を掛けてくれて嬉しかった。あの時のキミから伝わってきたのは、本当に僕の事を心配してくれる感情だけだったから……」
 悠の方へとなんとなく投げ出してした良太郎の手に、伸ばされた指先が触れた。ためらうように一度離れたが、良太郎が逃げないと判るとまた触れてくる。その感触を確かめるように、触れた指先で優しく形をなぞる。
「武道をやってる人は心が落ち着いている人が多くて、感情の動きが穏やかな波みたいなんだ。だから僕にとっては一緒にいるのは居心地がいい」
「そうなのか?」
「うん。久間もそうだよ。一緒にいると安心するし、楽だから……」
 悠はそう言って、良太郎の右手の人差し指と中指を手の中に柔らかく握った。
「今も俺の考えてること解るのか?何か見えたりとか?」
「何も。……そんなに都合のいいものでも、便利なものでもない」
 良太郎の眼を見て、悠が小さく笑った。
「あいつはどうなんだ?あのうるさいヤツ」
「土師さんは僕に向ける感情が、なんか針みたいにちくちくするから苦手なんだ。本気でそういう意味で狙ってるようだし」 
 良太郎の手を離すと溜め息を吐き、天井を見ながらコンコンと自分の手の甲で額を軽く叩く。
「土師さんの一族は『五行』のうち『土』の気を持つ人が多く出るんだ。『木火土金水』の『五行』には相性があるんだけど、炯さんも『土気』を持ってて、それが僕の持つ『水』の気と相性が悪いから余計なんだ。まぁ、それだけじゃないから、結局は性格かな」
「もしかして火村さんは『火』なのか?」
「うん。苗字に入ってるから判り易いだろう? 『木火土金水』の『五行』の相性からいえば『水気』を持つ僕や藤代さんと仲が悪くてもおかしくないんだけど、そういうことはないしな」
「面倒見のいい先輩って感じだもんな」
「初めて会ったのは三年くらい前だけど、ずっとあんな感じだ。たまたま藤代さんが僕の家庭教師で来て、いろいろあって火村さんとも知り合って」
「家庭教師?」
「そう。中学に入った頃、僕の成績が良くなかったんだ。いろいろ悩んでばっかりだったから。どうして自分ばっかり人と違うんだろうって。今ほど達観出来ていなかった」
 やっぱり悠にも人と違うことで悩んだ時期があったのだ。良太郎が悠の傍に居て、感じとっていた顔に似合わない落ち着いた雰囲気はその結果得たものなのだろう。
「僕は小さい頃から他人には見えない死者の姿を見て、他人には聞こえない死者の声を聞いていた。僕にとって『死』というものは他の人間よりもずっと身近なものだったんだ。古戦場と言われる場所に行けば、何百年経っていても、いまだに感じ取れる程の生への執着や恨みの念は残っている。もう肉体は無くしてしまったのに、その想いだけが大地に染み込んでいつまでも消えない」
 悠は天井を向いたまま、小さな頃の話をし始めた。
「それに学校に行けば、他人と少し違うから、自分たちと同じではないからといって、虐められたり、からかわれたり。小さい子供でも透けて見える感情は、自分たちとは異なる生き物に対する恐怖や拒絶。むしろ子供だからはっきりと解る。……ああ、でもそこに敵意はあっても悪意がなかったのがせめてもの救いだったかなぁ」
 未知のものに対する恐怖や拒絶は、群れを維持する上での防衛本能にも似ているからだろうか。
 親戚に良く遊んでくれた年の離れた従兄弟がいるんだけど、女の子にかなりもててたみたいで、高校生で二股、三股が当たり前みたいな人だったんだ。最初は解らなかったけど、随分と相手を傷つけるようなことも平気でしていて、いつ不幸が襲いかかってきてもおかしくないくらいの、弄んで捨てた相手の女の子の恨む想いがべったり張り付いていた」
 悠の口から淡々と語られる話は、口調とは裏腹に人の醜い部分を感じさせるものばかりだった。
「そんなものばかり小さい頃から見てきた僕には、人の欲というものが愚かなものだとしか思えないようになっていたんだ。人の欲はどこまでも深くて哀しい。だから自分が欲を持つことすら疎ましくて気持ち悪くて、どうして自分が生きてるか解らなかった。学校の成績なんて落ちる一方で、そんな僕を両親は責めたよ。『腐った魚みたいな眼をしてる。』って言ってね。あの人たちにとって僕はとにかく他人に自慢出来る息子じゃないといけなかった。頭の出来が良く生まれた方の息子は良い高校に行って、良い大学に行って、有名企業に就職して、高い給料をもらって、最後は自分たちの老後の面倒を見てくれる。僕の意思なんて関係ない。同じ空間にいればまるで背後から耳元で囁かれるようにあの人たちのそんな思いが聞こえてくる。人に見えないものが見えるなんて言ったら、それすらきっと他人に自慢してしまう。自分の親だけど、気持ち悪くて仕方がない」
 家は安心して落ち着くことの出来る場所じゃないとダメなのよ、と言っていたのは良太郎の母親だった。しかし悠の話を聞いている限りでは、家で親と一緒に居るということは悠自身にとっては苦痛以外の何ものでもないように思える。よく家出もせずに我慢しているものだ。
「中学二年の時に来た先生が藤代さんだったんだ。僕が自分のことを話すことの出来た初めての人だった。あの人に会ってなければ、僕は死んでいたかもしれないし、多分ここにいることはなかった。それくらいに僕は自分の生きている意味が見えなくなっていた」
「……それがお前の『運命』の、人生の分岐点だったってことか」
「ああ、そうかもな。……久間、随分カッコイイこと言うなぁ」
「前に火村さんに言われたんだよ。俺がハルに会ったことも、あの日学校に行ったことも偶然じゃない。『運命』だってな」
 あの人らしい、と悠が笑う。
「でも、そうかもな。自分の為に生きることを放棄しかけていた僕にとって、世界のバランスを維持する為に生きていくことはとても魅力的なことだったから。自分で死ぬことも出来ない僕には、生きるためにしがみつく『何か』としては十分だった」
「今も、まだそう思ってるのか?」
「……今はそうでもない。そのうち生きていて良かったって思える事に、会えたらいいと少しは思えるようになったから」
「そうか……」
「それにキミに会えたことも感謝してる。こんな関係は僕には持てないものだと思っていた。僕に一番近いところにいるのはキミかもしれない」
 顔を良太郎の方へと向けた悠がそう言ってふんわりと笑った。
「……そう言ってもらえるのは嬉しいが、お前、言ってて恥ずかしくないか、それ……」
 良太郎は照れ臭さの余り、思わずそう口に出してしまう。
「いいんだ。夜の闇は人を素直にさせるんだから」
「……じゃあ、お前のことは俺が守ってやるよ」
 良太郎がそう言うと、数瞬の沈黙の後、悠が少し掠れた声で応えた。
「ありがと。でも、もうあのときみたいな無茶はしないでくれよ。それにやっぱりそういうセリフは彼女が出来るまでとっておいた方がいいと思うよ」
 あの時というのは、良太郎が『護り人』になることを選んだあの時のことなのだろう。こうして悠の心内を話してもらえるようになったのだから、あの時に自分の願っていた通りになっている。しかし、あの理不尽な焦燥感を思い出してしまい、もしそれを悠に悟られたらと思うとやはり恥ずかしい。
「人がせっかく恥ずかしいのを我慢して言ったのに、おまえは~」
 良太郎の少しばかり憤慨したような口調に、悠が軽い笑い声をたてる。
「まぁ、今はありがたく受け取っておくよ。……明日は観光に行くんだし、もう寝ようか」
「……そうだな。そうしよう」
 そう返事をした後、自分を落ち着ける為に良太郎は大きく吐息をついてから目を閉じた。   
    
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Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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