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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~揺らぐ心

     
 良太郎が風呂から出てきた後も、まだ悠は縁側の柱に寄り掛かったまま、ぼんやりと外の暗闇を眺めていた。
 結局、燎の『護り人』になるかどうかは両親とまた話し合うということになって、最後に『風の御霊』との契約が行われた。元々が『木気』に属するものだから、『護り人』であれば大抵の者が『風の御霊』とは契約することが出来て、それは良太郎も例外ではなかった。
 火村に付き添われて先に離れまで戻ってきていた悠は、後から戻ってきた良太郎を見ると、少し疲れた様に笑っただけで黙ったままだった。
 麦茶を注いだグラスを二つ用意すると、それを持って悠の隣に腰を下ろす。良太郎が余り太さのない柱に身体を預けようとして、少し悠の背中に触れてしまう。拳一つ分だけ悠が動いて、落ち着いた。ふわりと悠から漂ってきた石鹸のような匂いが良太郎の鼻をくすぐる。
「麦茶、飲むか?」
「あぁ、うん。ありがとう」
 外に向かって伸ばされた足の横に、グラスを置く。
「……みっともないところ、見せちゃったな」
「ん?……そんなことはない。あれで燎が『護り人』になるのはしばらく保留になったようだしな」
「そっか。ならよかった」
 汗を掻き始めたグラスを持つと、悠が口を付けた。
「……駄目だな、僕……。普段はなるべく考えないようにしてるんだけど、一度考え始めると抑えられなくなる」
 ふぅ、と溜め息を吐くと、悠は自分の膝を抱えて、そこに額を付けるように顔を埋めた。
「自分の親のことか?」
「うん」
 こもった声で返事が返ってくる。
「……お前も言ってみればいいじゃないか、親に」
 何か考えていたのか、しばらく間が開いてから、悠が口を開く。
「……それは、無理、かな……」
「どうして?」
「……僕は……僕は……最後にあの人達の思いを裏切ってしまうから。だから、言えない……」
「裏切るって、何を?」
 良太郎にはどういう意味なのか、さっぱり解らない。『護り人』としての活動は親には内緒にしているようだが、それ以外は成績も優秀で素行も問題ないはずだ。
「ごめん、それは……まだ言えない。久間のこと信用していない訳じゃないけれど、いつか話せると思うから、それまで待って欲しい……」
 そう言われると、良太郎にはどう返事をすればいいのか分からない。
 二人の間に流れる沈黙の向こう側で、良太郎の知らない虫の声だけが聞こえてくる。
「久間は、僕が触ってても怖くないのか?」
「別に……読まれて困るようなことは考えてないし、考えてることまでは読めないんだろう?」
「うん。そうだけど、普通は嫌がるから……」
 悠の言葉に、思わず笑い声が漏れてしまう。
「じゃあ、お前は俺に知られると困るようなこと、考えているのか?」
「そっか。そうだよね……」
 少しだけ笑いを含んだ声で悠がそう言うと、良太郎の肩のあたりにコツンと頭を寄せてきた。
「僕さ、小さい頃すごく猫になりたかったんだ。猫なら好き勝手やっててもみんなに可愛がってもらえるから」
 その言葉に良太郎の胸になんとも言い難い、切ない気持がじわりと拡がる。そんなことを考えてしまう子供の気持ちを想像できない程、良太郎は固い頭をしてるつもりはない。
「……やっぱり僕は、可哀想なのか」
 疑問とも肯定とも取れる悠のその言葉に、良太郎はそうだとも違うとも答えることは出来なかった。
「久間は、この国に生まれただけで僕らはそもそも幸せだって知ってるか?」
「……何がだ?」
「日本と同じように、きれいな水が飲めて、働けばお金がもらえて、そのお金で衣食住を満たすことが出来て、道を歩いていていきなり犯罪に巻き込まれない。そんな国が世界にどれくらいあるか知っているか?」
 いいや、と良太郎は首を横に振った。そんなことを今まで考えたことなどないからだ。
「実は全世界の国の半分もない。だから僕らはこの国に生まれて来たことがすでに幸運で幸せなんだ」
 それに、と悠は続ける。
「あの両親の元に生まれて、その日食べる物に困ったことはないし、何かで惨めな思いもしたこともない。暴力を振るわれたこともなければ、極端なネグレクト、育児放棄をされた覚えもない。そういう目に遭ってる子供に比べれば、僕はまだ幸せなんだよ、きっと」
 やはり悠と自分とではものの考え方も着眼点も違う。そんな悠の横に居られることを嬉しいと感じながら、やはり悠自身は幸せではないのだろうと良太郎には思えてしまった。

 良太郎がうとうととしかけたところで、またもぞもぞと隣の布団から身動ぎする気配がした。先程から数回繰り返されたそれがどうにも気になってしまい、その度に目が覚める。
「……ハル、眠れないのか?」 
 良太郎がそう言いながら身体ごと向きを変えると、悠も良太郎の方へと顔を向けた。
「うん。考えても仕方ないことだから、忘れて寝ようとするんだけど、上手くいかなくて……」
「さっきのことか?」
「うん」
 ごめん、と悠が眼を伏せた。
「ダメだな。こんなことぐるぐる考えてても答えなんか何にも出ない。自分が不幸だとか、可哀想だとか、自己憐憫に浸っているだけ時間の無駄だって、解ってるはずなのに。だから考えるのは止めたのに」
「前向きだな」
「だってそうじゃないか。一度落ちるところまで落ちてしまえば、後は上がっていくしかない。いつか生きていて良かったって思えることに会える時まで、出来るだけのことはやっておくって決めたんだ」
 蚊帳がもともと大きくないせいもあって、良太郎と悠の布団は間が余り開いていない。オレンジ色の豆球の灯りでも慣れてしまえば、良太郎の眼には悠の表情を見ることが出来た。
 もっとも今は目元を乗せた手の甲で隠してしまっていて、その表情を窺うことは出来ない。しかし唇が薄く開かれ、呼吸で薄い胸板が上下する様は少し苦しそうにも見えた。
「ハルカ」
 そう名を呼びながら、良太郎は伸ばした指先でそっとその頬に触れた。少しだけ頬を撫でると、悠が目元の手を除けて、良太郎の方へといかぶしげな表情を向ける。
「あんまり我慢するなよ。我慢ばっかりしてると癖になる」
 一瞬、悠の目が見開かれた。ふに、と柔らかい頬を突くと、悠の手が良太郎の指を捉えた。
「……キミからそんな言葉を聞くとは思わなかった」
「中学でバスケ部のキャプテンにいびられたことがあるからな。バスケが好きだったから最初は我慢してたけど、そのうちなんでも我慢することが癖みたいになった時期があった」
 思い出されるのは、あの時の悠の言葉。
『親に自分の声を聞いてもらえない子供の気持ちがあんたに解るか?開かない扉の前でずっと待ってる子供の気持ちが解るか!?どんなに叩いても叩いても、そこに扉があるって気付きもしない親を持った子供の気持ちが解るか!?』
 家族に自分のことを理解して欲しいと思うのは、半ば本能にも似ているのかもしれない。小さい頃のことを思い出してみれば、親や兄に自分の思いや考えを伝えることに、必死になっていた時期があったのは間違いない。
 そんな本能にも似た気持ちを、抑えて我慢してしまう悠のことを考えると胸がじわりと痛くなる。良太郎が関わることで少しでも楽になることが出来るのならば、そのほうがいい。自分と一緒にいる時くらいは、必要以上に我慢することは止めて欲しい。
「久間……」
 人の感情を波のように読み取る悠が触れている良太郎の手からは、多分言葉にし難い良太郎の気持ちが伝わっているのだろう。
 いや、むしろ伝わってくれればいい。
 寂しい癖に健気に頑張ってしまう悠を見てると、優しくしてやりたい、守ってやりたいと思う気持ちが強くなる。
 だから、これが伝わればいい。言葉を介さずとも、それが伝わるならそれでいい。
「こんな気持ち、僕は知らない……」
 良太郎の手をぽろりと放すと、悠が切なさが入り混じったような困った表情を良太郎に向けた。
 親から条件付きでしか何かをもらったことのない悠には、なんら見返りもなく他人から寄せられる気持ちは初めてのものかも知れない。
 家族と言うものは実はとても曖昧なものだと思う。親は子供を選ぶことは出来ず、子供も親を選ぶことは出来ない。兄弟姉妹だってそうだろう。確かにあの家族の元に生まれてきた良太郎は運が良かったかも知れない。悠や燎の両親に比べれば、良太郎は家族に恵まれている。血の繋がりに甘えることなく、家族として優しさを与えてくれたのだから。
「なぁ、そっち行っていいか?」
 悠がいかぶしげな表情で良太郎を見た。
「眠りたいんだろう?気分が落ち着くおまじないしてやるよ」
 腑に落ちない顔をしつつも、悠がもぞもぞと身体の位置をずらした。
 それに了解の意思を読み取った良太郎は、枕を持つと自分の布団から出て悠の横へと潜り込んだ。
「なに……、」
「ん~、添い寝?」
 悠の身体を自分の方へと抱き寄せ、背中に手を回す。冷え始めた夜の空気のおかげで、肌が触れても不快感は感じない。
「なんで、」
「昔、小さい頃に俺がひとりで眠れないと兄貴がよくしてくれたんだ」
 少し強張ってしまった悠の身体を宥めるように、背中をゆっくりと撫でてやる。
「久間……」
「ん?」
「あんまり僕を甘やかすなよ……」
 俯いているせいで籠った悠の声が、良太郎に自然と笑みを浮かばせた。 

 良太郎が目を覚ました時には、すでに悠の姿はなかった。浴室の方から水音がしているから、先にシャワーを浴びているようだ。
 盆を過ぎた田舎の朝方の空気はひんやりとしているが、抱き枕のように背後から悠を抱き締めていた感触が自分の腕の中に朧気に残っている。
 背中を撫ででやってるうちに強張りの解けた悠が、遠慮がちに良太郎の胸板に顔を寄せてきた。そうしているうちに穏やかな寝息が聞こえてきたから、良太郎が多少の羞恥心と引き換えにしたことは正解だったようだ。
 人を安心させる人肌の温もりは何物にも替え難いもので、物心付いた後にそれを経験させてくれていた家族には、口に出すことは恥ずかしいが素直にありがたいと今は思える。
 そうでなければ、悠にしてやることは出来なかった。
 ぼんやりとそんなことを考えながら、肌布団を捲り上げ、大きく伸びをする。
 寝乱れて開いてしまった浴衣の合わせから毎朝のことながら、朝立ちした自分のソレが視界に入り、そこでパンツを履いてないまま悠と一緒に眠ってしまったことに気が付く。
「集中力が落ちるようなら、何日か抜くなよ」
 『御霊』との契約で必要なのは集中力だ、と里に来る前、火村にそんなことを言われた。健康な思春期の男にその手の禁欲はツライものがあって、オナニーの頻度から言えばいつもよりも余計に我慢してる分、良太郎のソレはガチガチに朝立ちしているし、竿の付け根や袋の辺りにムズムズするような妙な存在感がある。以前に聞いた保健体育の授業で同じ男である体育教師が言うには、健康な成人男性は二、三日でタンクが満タンになるから、それくらいのペースで射精したくなるのは不思議じゃないことで、ましてや思春期の中高生ならオナニーは毎日したって異常じゃないから気にするな、という話だった。
 早い話が良太郎は溜まっている。
 さすがに他人の家で近くに悠がいることが多い以上、良太郎にそういうことをするつもりはない。
 それに何かの理由で長く溜めた後の放出感はいつもとは一味違う快感があって、どうせならあと一日我慢してから自分の部屋で存分に扱いた方が余計に気持ちがイイ。
 そんなことを考えていると、物音がして悠が浴室から出てきた。
 自分の持ち物ながら、いささか持て余し気味なそれを浴衣の前を合わせて、隠す。
「……おはよう」
「お~。昨日は眠れたか?」
 タオルを被って髪から水気を取っていた悠が、良太郎の声に隙間から顔を覗かせた。
「うん、おかげさまで。ありがとうな、久間」
「いや、だったらいいさ」
 蚊帳越しにほわりと悠が嬉しそうに笑ったのが見えた。
「久間って前に家に行った時、ベッドに抱き枕あったけど、いつも使っているのか?」
「そうだな。あれがあると腹が出ててもハグしていれば腹が冷えないし」
「なるほど。まぁ、早くシャワー浴びてきなよ。朝ご飯食べたらどこか行こう」
 自分自身の感情を持て余していた様子は今朝の悠にはもう見られず、そう言って良太郎を急かしてきた。

 まさかその夜にそんなことを悠としてしまうとは、良太郎は微塵も思ってもいなかった。
 良太郎は友人や仲間として、悠のことは気に入ってる。『護り人』のこともあるから、恐らく前に自分が望んでいた通りにそばに居ることが出来て、これから長く付き合うことになる人間の一人に違いない。
 確かに黒縁メガネを外した時の地味に見えて綺麗に整っている顔や、自分よりも小柄で少し細身の身体や、いろいろなことに耐えてそれでも前に進もうとする意思が、良太郎の保護欲や庇護欲を刺激するのは間違いない。
 昨夜、感情を上手くコントロール出来ない悠と同じ布団で眠ったのだって、あくまでも庇護欲を刺激された結果でのことだった。
 その日は朝ご飯の後に散歩に行って、おいしい御飯の礼に畑仕事をしていた火村父を手伝ってみたり、カブトムシを探しに山に行ってみたり、近くの川で水遊びしてみたりと、田舎の夏を満喫した。こっそりと良太郎が契約したばかりの『火の御霊』を呼び出して、川遊びで冷えた身体を温める為の焚き火をしてみたりもした。
 夕食は昨日まで肉や魚を食べられなかったこともあり、良太郎と悠の為にバーベキューをやってくれた。
 炯と燎がお詫びなのか御礼なのかよくは判らないが、高そうな肉を持参してきていた。
 相変わらず炯は悠になにかと絡んできていたが、体よくあしらわれていたような気がする。
 もっとも良太郎が覚えているのは酔っぱらう迄のことで、次に気が付いたときはどうやって戻ってきたのか、離れの布団の上だった。
 酔っぱらったといっても酒の類を飲んだ訳ではなく、出されていた漬物のアルコール分に酔っただけなのだが。
   
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Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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