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2010-06-22(Tue)

五行風水記~クマとハルカ~心の裡

   
「おまえら、ケンカでもしたのか?今朝から、全然口聞かないじゃないか」
「まぁ、ケンカじゃないんですけどね……」
 悠と藤代の背後で自動ドアが閉じると、それを見送った火村が良太郎にそう言ってきた。
 里に来た時に列車を降りた駅まで悠と共に火村に送ってもらい、今はその待合室で発車の時刻を待っている。
 悠は隣にある割と大きな売店に藤代と一緒に土産物を見に行っていて、いまここにいるのは良太郎と火村だけだ。
 昨日、大量に食べた漬物のアルコールに酔ったせいなのか、単に男として溜まるものが溜まっていたせいなのか、離れの風呂場で互いに相手の自慰に手を貸すということをしてしまった。
 しかも、良太郎が悠にしてやった時は勢いで流してやってしまった感があり、さらにはあんなことまでしてしまった。
 そのせいなのか、今朝起きた時から悠は良太郎と最低限の必要なことでしか口を聞いてくれていない。目も合ったらすぐにそらされてしまう。
「ふうん。……その割にはあいつ、お前のこと、妙に意識してるよな」
「そうですか?」
「視界の端には入れているな。古武道の訓練で視野を広げる『八方目』っていうのがあってな、それが出来るようになれば普通の人間が捉え切れないような視界の外も意識して見ることが出来るようになる。あいつは後衛の術者だが、一応それなりの訓練を受けていて、その中に『八方目』も入ってるんだ。もっともお前には鎮守が自分のことを見ていない様に見えてるんだろうがな」
 そう言われて眺めた売店の中では、悠が何かのパッケージを持って、藤代と一緒に面白そうに笑っている。
「お前、あいつを泣かせるようなこと、するなよ?」
「えっ?」
 火村の言い様に、心当たりのない訳ではない良太郎が思わず火村の方を見てしまう。
「鎮守はあの力のせいで、小さい頃からずっと独りだった。酷いいじめ方をされたことはないみたいだが、そのせいで同じ年くらいのやつと、どう関係を作っていけば良いかが解らない。生まれ持った性質が自制する質というか内罰的というか、何かあるとすぐ自分が我慢する方を選んじまう。まぁ、親のせいもあるんだが」
「そうみたいですね。自分でも俺とどれくらいの距離を取ればいいのか解らない、って言ってました」
 良太郎がそう同意すると、火村も苦笑いをしながら売店の方を見遣った。
「体育会系のノリで行くなよ?あいつ、すぐにいっぱいいっぱいになるぞ」
 もしかしたら昨夜のあの行為のせいで、悠はもういっぱいいっぱいかも知れません、とは良太郎には言えず、黙ったまま頷いておいた。距離の取り方が解らないって言っていた人間相手にあんなことをしてしまった訳で、嫌な汗が背中に浮かんできそうだ。
「……鎮守のこと、守ってやってくれ」
 不意に火村の口から今まで聞いたことのないような随分と神妙な口調で、そんな言葉が出てきた。驚いて良太郎は目を見開いて火村を見た。
「『儀式』の時は俺が止めたが、感情が暴走するとその場の天候に影響を与えてしまう程にあいつの『御霊』を使役する力は強い。もしマイナスの方向の感情にあいつが飲み込まれたら、恐らく街のひとつくらい簡単に壊滅させてしまう。本人が自制する性格だから、今まで何も起こってないようなものだし、まだ人も殺していない。あの性格だから、あの桁外れに強い力を与えられたのかもしれない。俺と藤代がケアしてやれればいいが、付きっきりでいることも出来ない。だからお前が『護り人』になってくれたことは正直なところ、感謝してる」
「そんな大げさな」
 正面からの大真面目な火村の言葉に、少しばかり照れた良太郎はそう言ってしまう。
「大袈裟じゃない。あいつはいつも独りぼっちだった。他人に見えないモノが見えて、それが原因で他人との関係がうまくいかない。そういうことを理解して支えて欲しいはずの親からは理不尽に大きな期待を掛けられているのに、親はあいつ自身のことを見ていない。普通なら道を踏み外してるか、死んでいる。それでもなんとか自分を投げ出さずにやってきた。どれほどのものをあいつは抱えて、背負っているのか、俺にも分からない。でもな、ひとりでも自分の話を聞いてくれる人間がいれば、人は生きていける」
「火村さんや藤代さんだっているじゃないですか」
「そうだな。俺と藤代があいつと出会った時は、本当にギリギリだった。全てに絶望して死人みたいな眼をしていたからな、あいつ。まだ十三かそこらなのに」
 過去を思い出した火村のその声は、あの夜の悠の話を裏付けるような、そんな物悲しさを含んだものだった。
「今から3年前だ。全国的に気候不順で、関東でもおかしな天気が続いた年があっただろう?春先に雪が降ったり、夏でも寒くてずっと雨が降ったり。本人は知らないかもしれないが、ほとんどは鎮守が原因だって言ったら、お前は信じるか?」
 にわかには信じ難いことが火村の口から良太郎に告げられた。確かに言われてみれば、そんな年があったような気がする。
「『護り人』の術者の力の強い者が、関東の『御霊』達の動きがおかしいことに気が付いたんだ。『御霊』は自然現象そのものだからな。当然天候にも影響する。何かの力が影響していることは判ったんだが、それが何かが解らない。何者かが『術式』で『御霊』を使役しているなら調べようものあるんだが、そうでもない。いろいろと調べているうちに中心地はだいたい絞れた。そんな時だ、藤代と俺があいつと会ったのは」
「なんか、ハルのところに藤代さんが家庭教師で来たって」
「ああ、偶然といえば偶然なんだ。新しいカテキョ先を、どうせだったら調査範囲にするって藤代が派遣センターで調整した後、最初の紹介先にあいつがいた。藤代が驚いてたな。契約もなしに『御霊』が勝手に彼の意思に応えているって」
 火村の話からすれば、三年前の大規模な天候不順が悠の感情の波の揺らぎや精神的な不安定さに『御霊』達が勝手に応えた結果、起きていたということになる。本当だとすれば先程火村が言った『街のひとつくらい簡単に壊滅させてしまう』が冗談ではなくなる。インフラがいくら整備されていようが、大量の雨が長く降り続いただけでも、今の日本では機能がマヒしてしまう。実際にそうなっているのを良太郎は映像で見ている。
「他人にはない力を持って生まれても、親の愛情があれば道を間違えずにすむ。でもあいつは親が自分に向ける関心の裏にあるものを読んでしまった。自分が親の老後の保険代わりにされてることや世間に対するつまらないプライドをな。……お前、想像がつくか?同じ屋根の下に住んで、自分がその庇護の元で生きなければいけない人間から、毎日その期待や要求を聞かされ続けることがどんなものか」
 火村にそう言われたが、正直なところ良太郎には想像がつかない。スポーツの世界がマンガみたいな古臭い熱血だけでやっていけるような世界じゃないことは、中学時代にバスケ部のことで解った。高校生になって進学や就職を考えれば、社会というものがそれほどきれいなものではないと理解はしてきてはいる。例えれば、小さい頃からなんとなく『そう思っていたこと』が目の前にチラつく様に見えてきているとでも言えばいいだろうか。大学進学を考えると、高校進学に比べてかかる費用を親が出せるかどうか、親の収入と相談しないといけないと言ったような。大学進学という、まだ自分にとっては夢に半分浸かっているようなことでも、成績の他に実際に関わってくるのは現実の金銭的な問題なのだ。今の良太郎くらいの年齢になれば理解や納得のしようもあるだろうが、小学生のうちから毎日そんな現実的な部分ばかりを親から聞かされ続けられるのは、たまったものではないだろう。それに事実を自分から悟ってしまうのと、他人から聞かされるのでは納得出来る深さが違う。
「……つらい、でしょうね」
 滲み出るように出た良太郎のその一言に火村が頷いた。
「そうだ。普通は自分の中の欲望に気が付いて、それを受け入れるなり拒否するなりして、そして周囲の人間も自分と変わらない人間だと理解し、受け入れていく。そのステップを飛び越えて、小さい頃から親の欲求を聞かされ続けてみろ。それは苦痛でしかないし、自分が何かを求めることですら、疎ましく思えるてくるんだろう。肝心なのはこの世界で生きたいと願うこと、欲を持ち続けることなのにな」
 だから、と火村が続ける。
「お前が友達や仲間として出来る分でいい。あいつに優しくやってくれ。あいつがこの世界で生きていいと思えるように。お前自身が家族に愛されて育った人間だっていうのは、見ればわかる。そういう人間じゃないと、他人に本当に優しくなんて出来ないからな」
 そう言えば悠にも、良太郎は家族に愛されている人間だと言われたような気がする。
「そんなに立派な人間じゃないですよ、俺」
 火村の芝居がかったようなクサいセリフに、良太郎はそう返した。よくこの男は恥ずかしげもなく、こんなことが言えるものだと思う。
「……お前、家族と居て不安になったことあるか?」
 正直に首を横に振る。
「『相手に優しくする』っていうのは、『相手を安心させる』ってことなのさ。お前は家族からそいつをたくさんもらってるんだよ、自分でも気付かないうちにな」 

 列車が定刻通りに走りだして、十分も過ぎただろうか。まだ列車に乗って座席をどこにするかというもの以外、悠とは会話らしい会話をしていない。
 意を決すると、相変わらず良太郎と目合せてくれないに悠に話しかけた。
「なぁ」
「ん?」
 ちらっと良太郎の方を見たものの、眼鏡越しの悠の眼は窓の外を流れていくひなびた田舎の風景を眺めている。
 カンカンカンと近づいてきた甲高い遮断機の警報音が、自分たちの真横を通り過ぎて、また遠のいていった。
「やっぱり昨日の夜のこと、怒ってるのか?」
 悠はまたちらっと良太郎の方を見ると、窓の外に顔を向けたまま、そっと目を伏せた。
「……別に、怒ってる訳じゃない」
「じゃあ、」
「……なんていうか、驚いたっていうか、それにやっぱり恥ずかしいし……」
 少し顔を赤くしながら、悠は昨日の自分達の姿を思い出しているのか、黒縁眼鏡の奥の目もわずかに潤んでいるような気もする。それに話し方の歯切れもいつになく悪い。
「キミ、前にもああいうこと、したことあるのか?」
 窓の縁の肘をついて、それに頬を乗せると悠が良太郎の方を見た。しっかりと合わされた目の少し濡れたような様に、今度は良太郎の方の胸の鼓動が早くなる。
 思わず視線を逸らしてしまうが、少し声を潜めて答えた。同じ車両に他の乗客がいない訳ではない。 
「あ~、ない、訳じゃない。学校や部活の泊りのイベントで、寝てて悪戯されたことなら、何回かある」
 中学校のバスケ部の合宿や修学旅行で、寝ているうちに悪戯され、気持ち良くなって結局最後までされてしまったことがある。さすがに自分からして欲しいとは思わないが、下半身が気持ち良くて目が覚めた時には、もう出さないとどうにも収まりが着かないところにまでなっていたのだから、仕方ない。
「され慣れてると思ったら、そういうことか」
「仕方ないだろう。おれらの年の性欲なんて、ブレーキの効かない車みたいなもんなんだから」
 半ば開き直ったような良太郎の言い訳に、悠が可笑しそうに笑った。
「思春期の男の性欲ってそういうものだっていうから興味はあったけど、あの時のキミの精神状態は凄かったよ、本当に。『出したくてたまらない』っていうので、キミの頭の中いっぱいだったから。まぁ。それに僕もあてられた訳だけど。しかもキミにあんなことまでして。今思い出しても恥ずかしい」
 他人の感情を波のように受け止める悠が、良太郎の性欲の激しさに巻き込まれたということなのだろうか。そうだとすれば、少し恥ずかしい気がする。良太郎自身悠にされたことは、自分から強請ったというのがやはり恥ずかしいものの、自分の手で処理するよりは気持ちが良かったくらいだから、嫌悪感らしいものは残っていない。
「まるで暴走した列車って感じだったよ。あの感覚は女の子に理解しろって言っても無理だろうな。でもいくらキミに酔いが残ってて、僕が興味があったからって、あれはやり過ぎだよ。相手が女の子だったら強姦未遂だ」
 言っている内容は手厳しいが顔は笑っているから、やはり怒ってはいないようだ。
「悪かった。すまん」
「いい。……僕も気持ち良かったし。癖になったら困るから、二度目はないけどな」
 良太郎が謝ると、恥ずかしそうに視線を外してそう言う。
 列車が川に掛かる橋に差し掛かったせいで、高い欄干の影が悠の顔にかかり、大きなレール音と共に震動が伝わってくる。
 数瞬の沈黙の後、悠がひとつ溜め息を吐いた。
「でもあんな暴走列車みたいな欲は僕にはないからな。やっぱり僕は男としてはどこか不完全なのかもしれない」
 そう淡々と事実を告げる様子はどこか自嘲的だ。
「そんなことないだろう?あの時だって、ちゃんと……」
「……そういう意味じゃない」
 良太郎の身体にもたれて、その手の中でイったことを暗に仄めかすと、悠は顔をさらに赤く染めてその勘違いを否定した。
 やはり昨夜の浴室の時もそうだったが、悠の恥ずかしがる様はわずかだが良太郎の雄の部分を刺激するようだ。鼻の奥が少しむずむずしてきて、やってはいけないと解ってはいても少しからかってみたくなる。
「うまく言えないけど、そういう暴走列車みたいな性欲とか、野球やサッカーで盛り上がるとか、よく解らない収集癖とかあるじゃないか」
 悠が言わんとしているのは、多分男同士なら深く言わなくても感覚で解り合えるという部分のことのようだ。
「お前、自分でいろいろ自制してるっていうか、我慢してるところあるから、それで余計にストッパーが掛かってるんじゃないのか?」
「ははは。そうかも。あんまり物が欲しいと思うこともないしね」
 そう言い、どこか寂しそうに笑った。
    
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水鳴沢

Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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