--------(--)

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2010-07-16(Fri)

五行風水記~クマとハルカ~戸惑い

   
 それからさらに数日過ぎた日の午後。
 窓から見える空は、肌に感じるぬるく湿った空気をさらに不快に感じさせるような、どんよりとした曇り空だ。
 熱い日差しが遮られている分、普段よりは過ごし易いものの、いつもより重く湿った空気の感触が、下校する時に雨で濡れないかどうかを心配させるような、そんな天気だった。
 メイド服を借りられるツテのある女の子が、実物を持ってきたらしい。
 早速、着てみたいと手を上げた子達が、いそいそと他の子と一緒に教室から出て行った。
 その間、残った人間で教室をどう飾り付け、それらしく見せるかを考える。
 一応のテーマは「貴族のような優雅さ」らしいが、良太郎は日本の普通の庶民なので、生憎そういうものと接したことはない。
 女子はカーテンをレースでドレープ?が出来る物に変えたいようなことを言っていたが、さすがにそれだけで分配された予算が飛びそうな代物は反対されていた。
「なぁ、ドレープって何だ?」
 聞き慣れない言葉に、良太郎が斜め前に座る悠を指先で突いて訊くと、
「ひだのことだ。女の子の服で生地を余らせてわざとそう作ってるデザインがあるだろう?カーテンを開けて寄せた時に、こう丸く波が出来るのもそうだな。優雅さを表すものだ」
 と、身体を半ば向け、そういう答えが返ってきた。ジェスチャー付きの説明は良太郎と同じ様に解らなかった他の生徒にも聞こえていたらしく、何人かがなんとなく悠の方に注意を向けていた。
「お前、よく知ってるなぁ」
「この前読んだ本に出てただけだから、たまたまだ」
 良太郎の感心した声で悠の顔に少し照れたような表情が浮かんだが、すぐにまた黒板の方へと身体の向きを戻した。
 と、そこで教室のドアが開けられる音が聞こえたかと思うと、女子からの黄色い声が上がった。男子からも無意識に漏れたような感嘆の声が聞こえた。
 良太郎が声の向けられた方に顔を向けると、そこにはメイド服姿になった生徒が三人立っていた。
 三人共に黒のワンピースを着てフリル付きの白いエプロンを付けている。スカートの長さは脛くらいまでの長さだ。ただ頭に乗せているものは違って、それぞれ白いフリルの付いたカチューシャだったり、キャップだったり、シニヨンだったりしている。
 自分から着てみたいと言い出すだけあって三人共可愛くて似合っているが、うっすらと汗をかいているあたり、暑そうだ。

 柔道部での部活が終わった後、良太郎は購買のあるホールへと悠を迎え行った。
 良太郎の部活と悠の図書委員の週番が重なった日は、一緒に帰る為にだいたいホールで悠が良太郎を待っていることが多い。ここなら購買が閉まった後でも自動販売機でなにかしら飲み物を買うことが出来るし、備え付けのテーブルと椅子もあるからだ。大抵は良太郎が来るまでの間、その椅子に座って本を読んでいることが多い。
 それが今日に限って、ホールにその姿がない。
 まだ図書室にいるのだろうかと三階まで階段を上って行ってみたが、既に中の照明は消され、ドアには鍵が掛けられていた。
 他にいるとすれば教室くらいしか思いつかず、良太郎は自分たちの教室へと足を向けた。
 すでに九月に入っていることもあって、校舎の中は文化祭の準備を始めた生徒達が、多くはないがそれなりに残っている。廊下を歩いて行くに連れ、その生徒達の騒がしい声や活気のある気配が伝わってきた。
 突き当たった廊下を曲がってすぐにある、明かりの洩れた自分たちの教室に入る。
「あ、クマくん」
 足音と気配に気が付いたのか、中にいたうちの一人が振り向いた。外が暗くなってきているせいで、窓ガラスが教室の様子を白っぽく映し出していた。
 良太郎が見たところ、明かりに照らし出された教室の中には女の子しかいないようだ。そのうち二人だけがメイド服を着ているが、他は全員制服姿だった。メイド服の二人は背を向けて、俯き加減になっているせいで良太郎の方からは元より、窓ガラスの反射でも顔は判らない。
「なぁ、ハルカ見なかったか?」
 他に行くところを思い付かなかった良太郎がそう訊くと、ほとんど全員が笑い出しそうな、面白そうな表情になった。
「やっぱり、後ろ姿じゃわからないみたい」
「相方失格よね~」
 そう言うと、彼女達はクスクスと笑い声を上げた。
 不意にまさか、という思いが良太郎の中でじわりと込み上げてくる。
「ごたいめ~ん」
 女の子達はどこかのテレビ番組のような声を掛けながら、メイド服姿で俯いて立っている二人の肩を掴むと、良太郎の方へと振り向かせた。 
 良太郎の目に二人の顔が晒される。
 レース付きのカチューシャの下にあるのは、二つとも見慣れた顔だった。
「……ハルカ、菊池」
 驚いた良太郎の口から思わず二人の名前がこぼれ出て、目が見開いてしまう。
 二人とも着ているのは、袖が半袖のメイド服だった。
 菊池は目が大きめで割と女顔をしているが、半袖から見える腕は日に焼けているし、割と骨ばっている。それに無理に着せられでもしたのか、憤慨した表情の顔で全てを台無しにしていた。
 悠の方は華奢とまではいかなくても菊池に比べるとまだ細くて、メイド服の黒が映えるくらいには色も白い。いつも掛けている黒縁メガネを外してしまうと、地味に整った顔立ちにメイド服が随分と似合って見えた。雰囲気的にもそれらしい清楚な感じが醸し出されている。少し俯いた顔には、恥ずかしそうなのを我慢している表情が浮かんでいた。
 良太郎は思わず、じっとその顔を見詰めてしまった。それが解かったのか、悠の顔に赤味が差してくる。
「ほら二人とも、さっき教えたのやってみて」
 女の子達の一人にそう促された悠と菊池が互いの顔を見合わせると、そう声を掛けた子の方を向いた。
「まじでやらないとダメなのか?」
 菊池がしかめっ面をしてそう訊くと、女の子達が一斉に頷いた。相談もしてないはずのに、なぜそこで綺麗に動きがピッタリと合うのか、謎だ。
「どうせ文化祭当日には嫌でも何回もすることになるんだから、今から慣れておかないと」
 さらに追いうちをかけるように、そんな声が掛けられる。
 重い溜息が悠と菊池の口から漏れた。それでも二人は顔を見合わせると、おずおずと黒いメイド服のスカートを両手の指で摘み、少し持ち上げた。
 そして良太郎の方を向くと、片足を後ろに引き、踵を持ち上げた。
 少し膝を折りながら、ふわりと腰を下げる。悠が顔を上げて、恥ずかしさに少し潤んだ目を良太郎へと向けた。
 感じてしまった気まずさに、思わず逸らしてしまった視線で菊池を見ると、相変わらず怒ったような顔をしていた。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
 微妙につっかえながらも、二人同時にそう言った。ふわりとスカートが揺れる。
 ……きた。いまのは、きた。これは、マズイ。
『可愛い……』
 自分がそう思っていることを認識して、余計にマズイと思ってしまった。相手はメイドの格好をしているとはいえ、同性なのだ。
「……どうかな?」
 少し潤んだ目をしながら小首を傾げて訊いてくる悠に、良太郎は直ぐには答えられない。
『やっぱり、可愛い』
 悠のその仕草が良太郎の心臓の鼓動を無駄に速くしてしまう。
 それどころか、自分の顔がじわじわと熱くなっていくのが分かった。耳まで赤くなっていくような気がしてならない。
 細くて清楚で可愛い。胸はなくても別に構わない。
 メイド服姿の悠はがっつりとその条件に当てはまることに、良太郎はたったいま、気が付いた。
「いや、その、まぁ、いいんじゃないか」
 捉えられていた視線を外しながら、そう答える。
 良太郎自身はどう思っていても、悠の性格を考えると似合っているとも可愛いとも言えずに、取りあえずそう濁しておいた。どういう経緯でメイド服を着ることになったのか解らないが、前に珍しく無愛想になるくらいには嫌がって、断っていたはずだ。
 外した視線の先で、たまたま良太郎と目が合った女の子は何を考えているのか、面白そうにニヤニヤとしていた。
 無難な返事にほっとしたのか、肩から力を抜いた悠が指で摘んでいたスカートの生地を放した。
「なぁ、俺は~?」
 悠の隣の菊池がどうかと訊いてきた。見るからに不満そうな顔をしておいて、似合っているかどうかもないような気がする。
「嫌そうな顔しておいて訊くなよ」
「まぁ、そうだけどよ」
 そう返事をするあたり、自分でも嫌そうな顔をしている自覚はあったようだ。
「二人とも可愛いから、似合ってたよ」
「そうそう」
 二人の周りを囲んでいる女の子達がクスクスと笑いながらそう言うと、菊池が「うるさいっ!」と吠えた。
「着替えるからお前ら出てけよ」
「そうだな。もう結構な時間だから帰らないと」
 女の子たちを教室から追い出すと、良太郎の前で悠と菊池が背中を向けた。
「なぁクマ、ファスナー下してくれよ。一人じゃ出来ないんだ」
「僕のも頼む」
 首を捻って、肩越しにちらりと良太郎を見やった菊池がそう頼んできた。悠も同じように良太郎を見る。
 菊池のうなじのホックを外して、ファスナーを下ろす時は何も躊躇うことなく、問題なく下ろすことが出来た。
 しかし悠の番になると、薄い金属片を摘む指先がどういう訳か汗をかいて、上手く摘むことが出来ない。
 自分に向けられた細くて白いうなじが、記憶の中の何かを刺激する。
 同性の服を脱がすという行為を、妙に意識している自分がいることを良太郎自身が解っていた。解っているのに感情のコントロールが上手く出来ない。でも摘む指先が震えていないだけ、まだ冷静なのかもしれない。
 それでもそれを悟られないように黒のワンピースの襟に指を入れたまま、ファスナーが噛まないようにゆっくりと腰のあたりまで下ろしていく。
 やはり自分の指が悠の首筋の肌に触れていることを意識してしまう。その中には、今の感情を読まれるのはまずいというのもあった。
 メイド服の下には、悠は普通に白のノースリーブを着ていた。正面から見た時にカラーがあったから、てっきりブラウスでも着ているかと思っていたが、カラーだけ付け替え出来るようになっているようだ。それでも暑かったらしく下着姿のまま、シャツの裾をパタパタと動かしている。
 剥き出しになった肩や、トランクスの裾からしなやかに伸びた足になぜか視線が吸い寄せられて、慌てて良太郎は窓の外へと顔を向けた。
「やっぱり俺よりハルちゃんの方が似合うな」
 カチャカチャとベルトのバックルを鳴らしがら、スラックスを穿いていた菊池がどこか楽しげにそう言った。
「菊池だって結構似合ってたよ」
 カッターシャツのボタンを留めながら、悠が反撃をする。
 鏡のように白く教室の中を映し出す窓ガラスで、制服に着替え終わったことを確認してから二人の方を見た。
「ハル、メイド服着るのは嫌がってたじゃないか。なんで着ることになったんだ?」
 良太郎はようやく普段と変わらずに目を合わせることが出来るようになったことを確認しながら、悠に訊いてみた。
「忘れ物して取りに来たら、菊池に捕まったんだ。お前も着ろって」
「クマが言ったんだぜ?大勢で着た方がひとりひとりの時間は短くなるって」
「それはそうだけどなぁ……」
 メイド喫茶がやりたい、と言い出した菊池が着せられるのは決まっていたようなものだったが、悠もメイド服を着る羽目になったのは、やはりあの時良太郎が言った案が採用されてしまったせいらしい。
 答えに窮していると、ハルカが仕方ないと苦笑を浮かべた。
「まぁ、着ても文化祭の一日だけだ。それも三時間か四時間くらいみたいだしな。久間のことを責めても仕方ない。他の誰かが言い出した可能性だってあるだろうし」
 そう言ってカバンを持ち上げると、良太郎に帰ろうと促した。菊池も同じつもりらしく、カバンやバッグを肩に掛けている。
 機嫌は悪くはなっていない様子に、良太郎は安堵しながら頷いて見せた。


 両手ですくった温めの湯で、バシャバシャと顔を洗う。
 浴槽の中に半分程張られた湯の中に浸かりながら、良太郎は今日の帰り際に教室で見たものを思い返していた。
 悠の、メイド服姿。
 自分好みでほっそりとして清楚で可愛いかった。
『……どうかな?』
 少し潤んだ目をしながら小首を傾げて訊いてくる姿は、悠のことをそういう対象として見ていなかったはずの良太郎に、そう思わせるだけのものがあった。
 あの時の姿が脳裏に張り付いたまま、離れない。
 それに自転車で帰るという菊池を見送った後、悠が良太郎より先に電車を降りるまで他愛もない話を出来ることが、いつもよりどことなく嬉しかったような気がした。
 確かに黒縁メガネを外した時の顔は、女顔と言われる程の派手さはないが、それでも地味に整った造りをしている。
 どちらかと言えば良太郎好みなのかもしれない。たぶん動物で例えれば、犬と猫のどっちが好きだとか、目玉焼きには醤油をかけるかソースをかけるかとか、そんなレベルでのことだろう。選んだどちらかの方がしっくりと自分に合って、心地が良いというだけなのだろうが。
 でも、それだけでは説明がつかない。
 胸の中にまだ不可解に残る感情の残滓が気になって仕方がない。
 認めたくはないが、あのときの悠の姿が良太郎の好みのツボにがっちりとハマってしまったことは疑いようもない。
 顔が赤くなっていくのが自分でも判るくらいに反応していた。今まで付き合った二人の彼女の前でも、多少照れ臭い思いをしたことはあったけれど、あんな風にまでなったことはなかった。相手から告白されて付き合い始めたせいもあるだろうが、まだ彼女達の前では自分をコントロールするだけの余裕があったような気がする。
 良太郎がメイド服姿を特別好きか言えば、そうではない。クラスの可愛いと評判の女の子が着ているのを見ても、それなりだなぁと思ったくらいだ。
 それに悠がメイド服を脱ぐのを手伝った時に、ファスナーを下ろすという行為にやたらドキドキしたような気がする。ほとんど日に焼けていない白いうなじにも。
 何気なく、触れていた左手の人差し指を眺める。
 良太郎がそこまで思い返したところで、脳裏にその肌の感触がふっと思い出された。
 イク時に押し当てた良太郎の鼻や唇に感じた、悠の首筋の肌のなめらかな感触。
 同時に、夏休みに行った里でのあの行為も。
 生々しいと言えるくらいにあの時の状況をリアルに思い出してしまう。
 溢れた湯の流れる音に混ざって聞こえた悠の喘ぐ声。良太郎自身を握った柔らかい手の感触。抱きすくめた時に濡れて少し冷えた肌が馴染む感覚。良太郎の腕に預けられた悠の身体の重み。
 忘れていたはずの感覚の記憶が、まるでついさっき経験したかのような錯覚で身体に蘇る。
 湯に浸かっている下腹では、あの時の快感をも思い出したせいで、良太郎自身が勝手に力を漲らせ始めた。
「いやいやいや、まずいって」
 そうひとり呟いて、半勃ちくらいになってしまったそれを抑えるように、湯の中で膝を抱える。
 あの行為は酔っ払っていたあの時だけのことであって、二度目はない。それにあの時は悠をそういう意味で可愛いと思っていなかったと断言出来る。確かに悠が良太郎の加虐心を刺激するようなところはあったが。
 それとも、もしかして自覚はなくても最初から悠のことをそういう目で見ていたのだろうか。
 最初に悠の姿を見たのは、春の中庭の桜の木の下だ。
 紺色のブレザーを着て、薄紅色の桜の花びらを纏わせながら立つその姿は、とても幻想的でありながらもどこか寂しさを漂わせたものだった。
 彼の寂しげな表情になぜかとても惹かれて、その頬に触れたいと思った。
 今なら、何故そう思ったのかが良太郎には判るような気がした。
 胸を衝くようなその寂しさを自分がそばにいることで埋めてやりたいと思ったのだ。
 手で触れて、腕に抱き締めて、寂しくないように優しくしてやりたい。
 それは良太郎自身の中に、今は自覚することが出来るくらいにはある悠への保護欲や庇護欲といった感情と似ているものだ。
 知ってしまった悠の抱えている寂しさを考えると余計にそう思える。
 きっと初めて会った時にそれを感じ取り、だからあの後も気になって彼の姿を探してしまったのだろう。
 悠の術の影響下にあっても、無意識に彼を探して、偶然にも同じ車両に乗っていた彼を見分けることが出来た。
 そして、具合の悪くなった悠を放っておくことが出来なかった。
 あの寂しげな表情を思い出すと、今ははっきりと自覚することが出来る。
 手で頬に触れて、腕に抱き締めて、寂しくないように優しくしてやりたい。そして出来れば、笑って欲しい。
 自分の中でひとつになる様を見せない初めての感情に、良太郎は戸惑っていた。
   
スポンサーサイト

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

水鳴沢

Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

最新記事
カテゴリ
月別アーカイブ
書く気出させてみる?

FC2Blog Ranking

新たなる萌えへの扉
検索フォーム
FC2カウンター
リンク
RSSリンクの表示
QRコード
QR
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。