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2010-07-31(Sat)

五行風水記~クマとハルカ~告白

※途中で性的な描写があります。閲覧は自己責任でお願いします。長さはそれなり。

 良太郎は薄闇の中、少しだけ身体を起こして悠の顔を覗き込んだ。
 微かな寝息を立てて眠る悠の表情は、随分と穏やかなものだった。
 今の良太郎にとってはそんな寝顔を眺めているだけでも、満たされた気持ちになる。
 触れている悠の身体の温もりと重みが、いまこの時だけでも、何の嘘偽りなく必要とされていることの証に思えるからだろう。
 そのせいなのか、不思議と性欲が入り混じったムラムラとした気持ちにはならない。
 まったくないわけではないが、他の感情に押さえ込まれたようになってしまっていた。
 普段は悠が心の奥底に押し込められている言葉を聞いてしまったせいもある。
 『少しだけ、甘えさせてもらっても、いいか?』
 相手の負担になることを考えて、そう聞いてくるあたりが悠らしかった。相手との距離の取り方が判らないから、多分どれくらい甘えていいのかも判らないに違いない。
 出来れば、もっと甘えてもらいたい。
 背中を預けてくる姿を見れば、自分より体格がひと回りは小さく見えても、やはり思春期の男子高校生らしい体格をしている。小さな動物みたいに、自分の腕にすっぽりと収まるような物ではない。
 でも、やっぱり可愛い。
 『魄気』の影響を受けていたとはいえ、自分に縋り付くようにしてきた悠の様子は、良太郎の胸を痛ませるには十分だった。
 そばにいて、自分の持てる全てを使ってでも、守ってやりたい。
 脳裏に浮かぶあの様子に、ただそう思える。
 自分でも意外に深く感じられた想いに、良太郎はそっと息を吐いた。
 こんなに深く他人のことを思ったことも、考えたことも今までにはなかった。今まで付き合った二人の彼女よりも、間違いなく悠のことは強く想っている。
 さて、どうすれば自分と付き合っていいと言わせることが出来るか。そして悠を自分のモノに出来るか。
 良太郎は悠の整った顔を眺めながら、結局は自分の考えがそこに行きつくことに、苦笑いが浮かんだ。まるで悠を自分のモノにしてしまえば、全てが解決すると決めつけて、そう思い込んでいることに気が付いた。
 しかし、今の自分に出来そうなことなどたかが知れている。
 そもそも今日の出来事だって、自分にもっと力があれば、もっと技に長けていれば起きなかったのかもしれない。
 とりあえず、もっと身体を鍛えて、強くなろう。悠を守ってやれるように。
 良太郎は穏やかな表情を眺めながら、そう強く思った。
 なんとなくブランケットから出たシャツ越しの悠の肩に、誓いを立てるようにそっと唇を押し当ててみる。
 熟睡しているらしく、良太郎が少し屈めた上体を戻した時も、相変わらず穏やかな寝息を立てていた。
 信用されていると思えば嬉しいが、そういう意味で警戒されていないと思えば微妙な気持ちになる。男同士だから、それが当たり前だと頭では解っていてもだ。
 ゆっくりと身体をベッドに横たえると、眠っているはずの悠が無意識のうちにもぞもぞと背中を寄せてきた。
 ああ、やっぱり可愛い。
 一瞬のうちに自分の中に膨らんでしまった感情を確認すると、良太郎は身体の向きを変え、悠の腹に腕を回してその身体をそっと抱き寄せた。
 いまはまだ、これでいい。
 良太郎は自分の中の甘い感覚を、悠の温もりと共に味わうようにしながら、そっと目を閉じた。

 いつの間にか眠っていたらしく、朝になってから藤代に起こされた。
 身体を起こした悠は、必ず良太郎より先に起きていた夏休みの時とは違っていて、しばらくぼんやりとしたままだった。
「なんかすごい良く眠れた気がします。というか寝過ぎて眠い……」
 眠れた?と聞いてきた藤代にそう答えると、眠そうに欠伸をしてした。
 顔を洗った後はさすがにいつもの悠に戻っていて、二人で藤代お手製の朝食を食べた後、電車に揺られて帰った。
 土曜の朝だったせいもあって、それほど混んではいなかった。
 良太郎が家に着いた頃、、携帯に悠から御礼のメールが来た。
 内容は、『昨夜は付き合ってくれてありがとう』という言葉だった。
 『魄気』の影響を受けていたことは解っていたが、ためらいながらも『俺で良ければいつでも話を聞くから』と送ってみると、『うん、いっぱいいっぱいになったら頼むかも』と意外に素直な返事が返ってきた。
 『いっぱいになる前に言えよ』と送ってみれば、『そうだね。そうする』と返ってくる。
 強がりのない素直な返事が嬉しくて、それから良太郎は割と何かあるたびに悠にメールを送るようになった。
 すぐにそれは夜のオヤスミメールにまでなってしまって、気が付けば夜は大抵良太郎より先に寝る悠からの、オヤスミの言葉を待ってから眠るようになった。
 女の子たちと付き合っていた時は、ここまで律儀にはしていなかったはずだ。
 やっぱり自分は悠に恋をしているらしい。
 目の前のローテーブルに置いてある携帯をちらりと見やって、良太郎はそう思った。
 居間のソファの上で、たいして面白くもないドラマをぼんやりと眺めながら、深い溜め息をひとつ吐いた。


『ハルカ……好きだ』
『うん……僕も』
 腕の中に抱き締めた相手の耳元で良太郎がそう囁くと、はっきりと返事が返ってきた。
 剥き出しで触れ合う肌の、滑らかな感触が心地良い。
 自分の下腹では怒張した分身にさらに血潮が流れ込んで、ヒクヒクとわなないているのが分かる。
『好き……好き……好き……』
 繰り返される悠の言葉に、それだけで良太郎の身体にじわじわと快感めいたものが込み上げてきた。
 悠が自分の思いに応えてくれて、そして今裸で抱き合っている。
 良太郎はたまらなく嬉しくて、幸せだった。どう言葉にすればいいのか分からない。
 ベッドの上に細身の身体を優しく横たえると、その上に覆い被さった。
 悠と唇を重ねる。何度も、何度も、何度も。
『くま……』
『うん?』
『好き』
 首に回された悠の腕が良太郎を引き寄せると、ぎゅっと抱き締めてくる。
 隙間もなく身体が密着して、間に挟まれた良太郎のそれがごりごりと擦られると、また快感が膨れ上がった。
 腰骨を中心にぬるま湯に使ったような柔らかい快感が広がっていく。
『いいか?』
『……うん』
 良太郎の問いに頷いた悠の両足を開くと、その間に自分の身体を進めた。
 秘めらていたそこに、自分でも呆れるくらいに怒張しきった分身の先を押し当てる。
 緊張と興奮にバクバクと心臓が脈打っているのが判る。
 早く入れてしまわないと射精してしまう、と思えるくらいに下半身で快感が膨らんでいた。
 とにかく、入れたい。入れてしまいたい。
 良太郎は自分を抑え切れず、一気に腰を進め、自分自身の半ばまで悠の中に埋め込んだ。
 いつものものとは違い、背筋から腰骨までが溶けてしまうような射精感が、好きな相手と繋がったという多幸感と共に込み上げてきた。
『あぁ、出る、出る、出る……』
 心臓が早鐘のように脈打ち、同時に腰骨が溶けるような快感が膨れ上がると、我慢の限界をあっさりと越えた下半身に心地良い解放感が広がっていく。
 いつもより間違いなく気持ちが良い。
 その感覚に酔い痴れる良太郎の耳に、ふーっ、ふーっと荒い呼吸音が聞こえてきた。
 自分の分身のビクビクと押さえようのない脈動するような動きと共に、馴染みのある感覚が良太郎の下腹で現実感を伴ってくる。
 それまで夢の中で遮断されていた意識に、外界からの刺激が信号となって入り込んできた。
 聞こえてきていた荒い呼吸が自分のものだと解った。
 さらに着ているシャツやジャージの生地の感触と、触れているシーツや抱き締めている抱き枕の感触が戻ってくる。
 目を開けば、カーテン越しの朝の光に薄明るくなった壁や天井が見えた。
 そして右の腿のあたりにべったりと広がった濡れた感覚。
 「まじか……」
 両腕で抱き締め、さらに両足で挟むようにしていた抱き枕をゆっくりと除けると、案の定すこし捲れたハーフサイズのジャージの裾を、己の放ったもので濡れた先端部分が持ち上げた。それが押し付けられていた腿の半ばから膝あたりまで、濃い精液が広がっていた。
 余韻で力を漲らせたままだったせいで、ゆっくりと下腹の方へと反り返ってきている。射精した後でまだ過敏な肉茎にジャージの裾が擦れてくすぐったい。
 見れば、抱き枕にも自分のものらしい白濁した粘液がべったりと付いている。
 とうとう悠の裸が夢にまで出てくるようになってしまった。しかも初めての夢精。
 最後に挿入したところの感覚がよく解らなかったのは、良太郎が童貞のせいだからだろうか。
 夢精は気持ちがいいと聞いていたが、確かに自分の手でする行為の快感とは質が全然違う。
 腰骨が溶けてしまうと思うようなあの快感。
 それに悠が夢に出てきたせいなのか、まだ良太郎の胸の中には多幸感としか表現のしようのない甘く切ない感覚が残っている。
 時間があるなら、このまま二度寝してもう一度味わいたい。
 そう思える程に気持ちが良かった。
 しかし目覚まし時計を見れば、そろそろ起きてもいい時間だった。さすがにシャワーを浴びないとマズイだろう。
 ただでさえ寝起きの男は臭いというし、その上あんな独特の匂いをさせたまま満員電車に乗るわけにはいかない。
 なんとも言えない微妙な気分のまま、ペーパータオルとティッシュで後始末をする。
 コンビニでもらった小さなビニール袋に、拭き取って濡れたそれらを詰め込むと、口を固く縛ってからゴミ箱に放り込んだ。量が多いせいか、こうでもしないと部屋があの匂いで臭くなってしまう。
 拭き取っても跡が残ってしまった抱き枕を見ながら、ベッドに腰掛けた。
 最近、お気に入りのDVDを見ても今ひとつ興奮しないと思っていたが、これはいよいよ重症だと良太郎は自覚した。自覚せざる負えない。
 悠と裸で抱き合って触れ合うことに、罪悪感の欠片も感じなかった。夢の中で感じていたこと考えていたことの何処をさらってみても出てこない。
 自分は悠に恋をしている。今更ながらだが、間違いなく恋をしてる。だから抱き締めて、キスして、押し倒して、セックスしたい。
 同性相手に、ここまで想うのは異常なのかもしれない。
 でも、もうそれでも構わない。
 だから全力で手に入れる。例え狙っているヤツがいても、絶対に渡さない。


 自分は悠に恋をしている。今更ながらだが、間違いなく恋をしてる。
 だから全力で手に入れる。例え狙っているヤツがいても、絶対に渡さない。
 快楽の記憶に後押しされて、悠を手に入れると決めてみたものの、実際に学校で本人を目の前にすると、どうすればいいのか良太郎は困ってしまう。
 そもそも自分から誰かと付き合いたくて、相手の関心や気を引こうとすること自体、初めてかもしれない。
 よく考えれば夢の中で意識に刻み込まれた快楽が、そのまま悠とセックスした時の快感になるという訳ではない。
 同性同士のセックスは異性とするより気持ちがイイということは話には聞くし、実際身体目当ての同性に迫られた時はそんな誘い文句だったような気がする。
 まさかそれと同じ様に誘う訳にもいかない。
 もっとも良太郎はいまだ最後の一線を越えることが出来ていない童貞なので、比較が出来る経験がないから誘い様もない。
 それに少しは素の自分を見せて、ようやく甘えてくるようになった悠に、自分の恋愛感情を押し付けて逃げられてしまっては困る。
 前に火村に言われたこともあって、体育会系の勢いだけで突き進んではいけないことくらいは判っていた。
 さて、どうすればいいのだろう。
 多少の焦燥感を噛み締めながら、良太郎は教室の高い所を女子に言われるままに飾り付けていた。
 文化祭の間は良太郎のクラスは校舎の一階にある一年生の教室を借りて、模擬店を出すことになっている。一階の教室の外であれば一応校舎外ということで、火で調理することが出来るからだ。
 金曜日の今日、午後三時に開会式が行われる。そして、模擬店の設営や展示の準備など出来る限りのことを今日のうちに済ませ、土日には一般客も含め、公開されることになっていた。
 悠がメイド服姿で接客することになっているのは、日曜日の午前中という、毎年一番一般客が多い時間帯を割り当てられていた。
 正直なところ、良太郎としてはあの姿を他の男に見せるのは、出来れば止めて欲しいが、何せイベントなのでそういう訳にはいかない。
 まだ付き合ってるわけじゃないしな。
 そう思ったところで、どうすれば悠を自分のモノに出来るか、という所に帰ってループしてしまう。
 自分は案外ヘタレなのかもしれない。
 辿り着いた嫌な答えに、良太郎の左の目の下瞼がひくりと震えた。
 
 教室の飾り付けが終わった時には夜の七時を過ぎていて、それでも良太郎が悠と校舎を出る時には、まだ半分くらいの教室の窓には明りが点いているのが見えた。
 駅のホームで電車を待っている間、何気なく良太郎が悠を見ていると、黒縁メガネの向こうからじっと見つめ返してきた。
 何か物を言いたげな表情をしている。
「どうかしたか?」
「ううん。そういえば最近打たれた跡見なくなったなぁ~って思って」
「さすがにまだ攻めることは出来ないけど、思いっきり打たれることはなくなったから」
 棒術の稽古のことを言っているらしいと気が付いて、良太郎はそう答えた。
 師範は直接には何も言ってこないが、この前火村と会った時に素質があるとか、鍛え甲斐があるようなことを師範が言っていたという話を聞いた。どこまで本気にしていいのか判らないが、その自覚のない素質のおかげなのか、最近ようやく打ち身を作らない程度には捌けるようになってきた。
「そっか。レベルアップしてるんだ」
「……お前を守るのは俺の役割だからな」
 さすがに面と向かっては言えなくて、少し視線を外しながら、良太郎が半ば自分に言い聞かせるようにそう言うと、きょとんとした表情をした後、悠の顔が少し赤くなった。
「あ、ありがと」
 いや、と答えた自分の声は少し掠れていて、それがかえって良太郎に気恥かしいものを感じさせた。
「柔道部の方はいいのか?来月大会があるんだろう?」
 悠が話を切り替えるようにそう訊いてきた。
「ん、まぁな」
 確かに十月の初めに大会が続けてある。すでに部の方は良太郎たち二年生を主体にして練習をしていた。
「……応援しに行った方がいいか?」
「あ~、いや、気持ちは嬉しいけど、遠いからな。」
「そうか」
 悠と知り合ってから初めてそう言ってくれたことは嬉しかったが、良太郎達選手も前日から泊り掛けで行くような遠い所に、さすがに来いとは言えない。
「……なぁ、だったらなんかお守りくれよ」
 ふと思い付いて、良太郎はそう言ってみた。
「いきなりだな。急に言われても……」
「なんだったらそれでもいい」
 良太郎は困った顔をする悠の、吊り輪を掴む手を顎で指し示した。正確に言えば、その手首に嵌めている白木の腕環だ。
「それって、形代のことか?僕とキミじゃ、サイズが違うから合わないだろう、そもそも」
「どうせ試合中は付けられないから、どれもたいして変わらない」
「乱暴だなぁ。まぁ、しばらく仕事ないからいいけどな」
 それでも渡す気になったらしく、吊り輪から手を離すと、すぽっと手首から外して渡してくれた。
「サンキュ」
 まだ悠の体温が残っているような気がするそれを、良太郎はバッグにしまった。


 入口にいた客をギャルソンエプロンを付けたクラスメートが案内すると、机をいくつか合わせてつくった席へと座らせた。高さを合わせてからテーブルクロスを掛けてあるし、脚にも覆いを付けてあるから、元が生徒が使っている机だとは判りにくい。
 すぐに入れ替わりでメニューを持ったメイド服姿の悠がテーブルへと近付く。
「いっらしゃいませですにゃ」
 そう言いながら、悠が少し膝を折りながら腰を下げる。数瞬遅れてふわりとスカートが揺れた。
 朝から散々繰り返しているせいで、すでに羞恥心は麻痺したらしく、途中で頭に載せられた黒い猫耳に合わせて、語尾が猫語になっている。それに気が付けば良太郎の知らないうちに、勝手にうねうね動く黒いネコシッポまで付けられていた。
 勝手に動くネコシッポは小さなお友達の気を随分と引くらしく、やたらと触られている。
 色白の悠には、黒い衣装も小道具も確かに似合ってるから、プロデュースとしては間違ってはいないような気はする。
 『でも、いくらなんでもやりすぎだろうよ……』
 身長の高さとリーチの長さを生かして窓越しの教室の中へと、加熱調理済みの食べ物を載せたトレイを渡している良太郎から見れば、悠が愛想を振りまくのがやっぱり面白くない。
 良太郎の顔にそんな表情があからさまに出ているらしく、たまに目が合うと大丈夫と言わんばかりに微笑んでくる。
 あんなに可愛い顔を他の男に見せるようになるなら、いっそのこと何処かに閉じ込めてしまいたいくらいだ。
 当人は良太郎にまさかそんなふうに見られているとは思いもせずに、笑顔を振り撒いている。自分の頭に付いている猫耳が気になるらしく、たまに手が空くと触って感触を確かめていた。ふわふわの黒毛に慎重に触れている様はどこか猫っぽくて、それすら可愛いような気がする。
 日曜の模擬店は夕方4時までと決められていて、良太郎と悠の担当は朝9時から昼12時半までだ。
 はやりに乗ったのかどうかよくは判らないが、昼時の逆メイド喫茶の客入りは上々で、スペースギリギリで作った席はほとんど埋まっている。中庭につくられた休憩スペースでも飲食が出来る為、テイクアウトして行く来客もいる。
 良太郎が腕時計を見ると、あと少しで解放される時間になっていた。
「久間」
 ひょこっと窓から悠が顔を出した。
「これ取ってきてもらっていいか?もう交代して良いって言うから、着替えてくる」
 そう言って悠から渡されたのは、食品を注文する際に余り無駄が出ないようにと、生徒会が予め生徒用に作成した食券だった。
「図書準備室、空いてるから」
 文化祭のようなイベントの時は不特定の人間が出入りするということもあって、図書室自体は関係者以外立ち入り禁止になっている。
 良太郎に食券を渡した悠は、そう言って踵を返すと行ってしまった。
 何気なく渡された食券を順に見ていく。
 たこ焼き、ホットサンド、フランクフルト、焼きおにぎり、チョコクレープ、ミルクティー(大)。
 これは自分の分も合わせて考えても、両手で持ちきれる量ではない。
 良太郎が当てにされてるのか、頼りにされてるのか。最近、さりげなく甘えられているような気がしてならない。
 
 良太郎が予備のトレイに二人分の軽食をいっぱいに載せて、準備室のドアを開けた時、悠は何やら顔をぐりぐりと揉み解していた。
「ん、ありがと」
 トレイをテーブルに置くと、悠の斜向かいの椅子に良太郎は腰を下ろした。
「どうした?」
「……笑い過ぎて顔の筋肉がおかしい」
 そう言って、溜め息をひとつ吐いた。
 普段それほどはっきりとは表情を変化させない悠には、三時間以上にこやかな笑顔を作ることはそれなりにきつかったようだ。
「僕に接客業は無理だな」
 焼きおにぎりを食べながら、悠がそんなことをポツリと漏らす。
「そうか。それなりに愛想振りまいてたじゃないか」
 良太郎は頬張ったホットサンドを飲み込み、ストローでアイスコーヒーを吸うとそう言ってみた。
 少し皮肉交じりになってしまった気がするが、悠はそうは受け取らなかったようだ。
「今日の、あの時間だけだから出来たんだよ」
 小さく肩を竦めると、二人分のフランクフルトの入ったパッケージの輪ゴムを外して、フタを開いた。
「そういえば、久間、今日時々すごい怖い顔してこっち見てたけど?」
 怖い顔と言われるのは心外だが、良太郎が悠を見ていたことには気が付いていたらしい。
「気のせいだろ」
 さすがに可愛い顔で他の男に愛想を振り撒いていたから、とは言えない。付き合っている訳ではないのだから、そんなことを主張出来る権利はないし、そもそも良太郎が自分をモノにしようといろいろ考えていることの予想さえ、悠には思い付かないだろう。
 じっと良太郎の顔を見ていた悠が、手に持ったフランクフルトをしばし見詰めると、かぷっと齧り付いた。
 少し焦げ目の付いたそれの先が齧り取られ、滲み出た油と掛けられているケチャップで悠の唇が汚れた。
 油に濡れた唇が良太郎の視線を釘付けにする。どうしても唇の動きを見てしまう。
 唇はリップクリームを塗った時みたいに少しぽってりと存在感が増したように見えて、端に付いたケチャップを舐め取る舌の動きも少しイヤらしく見える。
 フランクフルトのあの形で、どうしてもそういう行為を思い出してしまうのは、多分盛りの付いた男子高校生なら仕方がない。頭の中は、見られれば逮捕されててもおかしくないような、妄想だらけだ。
 気が付けば悠は一本分のフランクフルトを食べ終わっていた。食べ終わった棒の先で、今度はたこ焼きをつんつん突き始める。
「この前、飯塚が」
「うん?」
 ちゅう、とミルクティーをひと口飲むと、何故か悠が飯塚の名を口にした。
「『最近、久間が熱い眼でお前のことを見てるから気を付けろ』って言ってきたんだけど」
 あいつは逆メイド喫茶の件といい、本当に余計なことを言う。ということは悠への恋心が本人にバレてしまったのだろうか。
 良太郎が苦い思いでそう考えていると、さらに悠の口から追い打ちが放たれた。
「さっきの僕を見てるキミの顔。なんか……すごいやらしー顔してた。まるで」
 ちらっと良太郎の方を見た後、少し赤くなり始めた顔を悠はきちんと向けると、
「俺のフランクも食べて欲しいって顔だった」
 と言った。恥ずかしいなら言わなければいいものを、まるで自分が言葉責めでもされたみたいに、言い終わった悠は顔を真っ赤に染めていた。
 そんな好きな相手の恥じらった顔を見せられると、良太郎としてはたまらない。それに今のセリフがエロ過ぎる。
 止めようもない勢いで、カーッと顔が熱く紅潮していくのが良太郎自身感じ取れた。これでは意識していると言っているようなものだ。耳までが熱い。
 ローライズのボクサーの中で、横向きに収めている自分の分身が充血していくのが分かる。ちらっと視線をやれば、スラックスの左前の部分が隠し切れないくらいに膨らんでいるのが判った。ただでさえ、平常時の大人しい時でも少し盛り上がっているのがなんとかシャツの裾で隠れている感じなのだ。これでは立ち上がった瞬間に勃起しているのがバレる。
「キミ、僕のことずっとそういう目で見てたのか?」
 しばらくの沈黙の後、少し顔の赤味が引いた悠がそう訊いてきた。
「いや、それはない。そういう訳じゃ、ない」
「じゃあ、いつから?」
「多分自覚し始めたのは、ハルがメイド服を試着させられた時だと思う……」
 もうこうなったら、話してしまうしかない。どのみち、いつかは告白するつもりだった。
 良太郎はそう思うと、悠に聞かれるままに答えた。
「メイド服フェチ?」
「そうじゃない。そうじゃなくて、メイド服着た時のハルがすごく可愛く見えて、そこで自分の好みだって気が付いた」
「な、なんだそれ……」
 たこ焼きを突っつきながら聞いていた悠が、良太郎のセリフに驚いたのか、顔を上げるとぽかんとした表情になった。
「気付くな、そんなこと」
 がっくりと椅子の背にもたれると、深い溜息を吐く。
「ごめん。……でも、仕方ないじゃないか。可愛いんだから」
 開き直ったように良太郎がそう言うと、また悠が溜め息を吐いた。
「最近、たまに僕の顔じーっと見てることあったし、やたら気を使われてるような感じがしていたのは、そういう訳か」
 困り果てたような弱々しい笑いが悠の顔に浮かんだ。困らせてしまったのは仕方がない。でも好きだという気持ちは抑えようとして抑えられるものではないし、止めようと思って止められるものでもない。
「なぁ、ハルカ。……好きなんだ。……俺と付き合ってくれよ」
 ちゃんと好きだという気持ちを伝えないといけない。
「……とりあえず、これ食べて」
 良太郎の言葉に渋面を作った悠は、自分が棒で突いてた分のたこ焼きだけ口に運ぶと、残りを良太郎に押し付けてきた。
「この前、同じベッドでキミと寝てたけど、実は僕は貞操の危機だったのか」
「いや、あの時はそんな気にならなかった。ただお前が頼ってくれるのが嬉しくて。だから抱き締めて、守ってやりたいって思った」
 あの時の自分の気持ちを思い出せば、今でも良太郎はただただ優しい気持ちになれる。自然と顔が綻んで、柔らかい表情になっているのが、自分でも分かった。
 視線を悠の方にやってみれば、照れたような表情で赤くなっている。
「なんだ、その、直球の口説き文句は……。第一キミは普通に女の子が好きだったはずだろう?彼女だって居たんだし」
「そうだけど……そうだったけど……今はお前が好きだ。こんなに好きになったのはハルが初めてだ。こんな気持ち、俺は今まで知らなかった」
「久間……」
 悠に好きだと言う度に良太郎の心は高ぶっていく。でも同時に心の奥底の深いところで温かく柔らかい何かが生まれてくる。
 感じ取ってくれているのだろうか、悠は自分のこの気持ちを。
「僕らは男同士じゃないか……」
 少しだけ熱く潤んだ眼差しで見る良太郎に、それでも悠がそんなありきたりな拒絶の言葉を返してきた。
   
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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

水鳴沢

Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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