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2010-08-04(Wed)

五行風水記~クマとハルカ~向き合う心


「ありがとうございました」
 頼まれたクッキーサンドが三つ入ったビニール袋を提げて、良太郎は店員の声を背中に聞きながらコンビニを後にした。
 バイトをしていない良太郎に、社会人の兄はこんな風にお遣いを頼むと言いつつ、ちょこちょこと小遣いをくれる。両親も高校生としてそれなりの額を渡してくれているが、そこそこの友人関係を保てるレベルでいろいろ付き合うには、やっぱりお金も必要だった。だから頼まれた時は素直に応じることにしている。
 溶けないうちに家に帰ろうと、少し早足になったところで公園に差し掛かった。
 大都市と言われている街の中でも、良太郎の家があるところはいわゆる住宅街で、それも治安が良いと言われている地域にある。
 公園では昼間は近所の子供達が遊んで、その保護者らが井戸端会議をするところを何度も見掛けたことがあった。
 昼間はそんな顔を見せる場所でも、夜の九時を過ぎた今は動く人影もなく、ただ微かに黄色掛かった街灯だけが公園の中を照らしていた。小さなトイレや水飲み場があるが、繁華街から遠いせいもあって、ホームレスの姿はごくたまにしか見かけたことはない。
 良太郎の歩いてる道とは反対側にベンチや砂場があって、土日の昼間はよくそこに井戸端会議らしき一団がいる。
 何気なくそのあたりに視線をやると、今夜はベンチに黒っぽいジャージ姿の人影が見えた。俯いたその姿はどうやらホームレスのようだ。
 『護り人』になったお蔭で幽霊を怖がる必要はなくなったが、それでも夜の公園にポツンと座る人影を見るのはあまりいい気分ではない。
 そう思って公園の脇を通り過ぎ掛けたところで、そのジャージ姿の人影が顔を上げた。
 『八方目』を習得しつつあるせいで、普段でも大分知覚出来る視野が広がってきている。だから良太郎がそれに既視感を覚える程度には認識出来たのは、そのおかげだったのかもしれない。
 通り過ぎようとした良太郎の、視界の端に入ったその顔の造りが意識のどこかに引っ掛かった。
 ピタリと歩いていた足が止まる。
 良太郎は振り返ると、低い灌木越しに眼を凝らした。矯正を必要としない視力は、街灯のぼんやりとした明かりに照らされたその顔を捉えた。
 『ハルカ』
 良太郎の意識に浮かんだ名前は、振られた相手のものだった。
 珍しいジャージ姿で、夜の九時にこんなところにいることがおかしい。悠の両親はたいした用もなく、夜出歩くことに厳しいはずだ。
 そう思いながら、良太郎は公園の中に入ると、ゆっくりと悠らしき人影に近付いていく。
 未練がましいとは思いながらも、会えればやっぱり嬉しい。でも少しだけ胸が痛むのが未練というものだろうか。
 わざと立てている足音にすぐに気が付いたのか、顔を良太郎の方へと向けると、少しだけ驚いたような表情を浮かべた。いつもの黒縁メガネは掛けていない。
「久間、どうして」
「ハルの方こそ、どうした?こんな時間に出歩いてると怒られるんじゃないのか?」
 家の事情を知っているからこその良太郎のもっともな質問に、悠が力のない笑いを漏らした。
「ん~、親とケンカして、家出かな」
 高校生にはありがちな答えでも、そんなことをしないと思っていた人間の口から出てくると、それなりに驚くことになるらしい。
「まじか」
「うん」
 思わず出た良太郎の言葉に、悠が頷いた。
「どうしたんだ?ケンカなんて」
「まぁ、いろいろ……」
 話すつもりのないらしい悠はそう言葉を濁した。
 ふぅ、と吐き出した息は重くて、そこに込められたものが良太郎にあの夜の悠の姿を思い出させた。
「どうするんだ?ネカフェでも行くのか?」
「それが夕飯の途中に勢いで飛びだしてきたから、財布も携帯もなくてな。火村さんか藤代さんに泊めてもらおうにも、携帯がないから連絡も出来ないし。仕方ないからこのあたりでひと晩すごしてみようかな~って。何かあったらコンビニに逃げ込めばいいしな」
 確かに二十四時間営業のコンビニの近くに居れば、何かあれば逃げ込むことは出来る。それに『護り人』としてそれなりに訓練を受けているようなことを前に火村が言っていたから、襲われても身を守ることくらいは出来るのかもしれない。
「それにしたって、ハルみたいに可愛い顔したのが、こんな時間にフラフラしてたら襲ってくださいって言ってるようなもんだぞ」
「キミくらいだと思うよ。そんなこと考えるの」
 自覚がないというは恐ろしいことで、痴漢に遭遇したこともあるくせに、悠はまだ自分の外見が男としては可愛い部類に入るとは解っていないようだ。
「でも困ったなぁ」
 良太郎は溜め息を吐くと、ベンチに座る悠の横に腰を下ろした。悠が少しだけ場所をずれた。
 無意識の行為だろうし、良太郎に場所を譲ってくれただけであっても、何となく逃げられたような気がして、少しだけやるせない気分になる。
「食うか?」
 溶かしてしまって無駄にするよりはいいかと、ビニール袋の中のクッキーサンドを取り出して、ひとつを悠に渡した。
「あ、うん。ありがと。……これ美味しいよな。高いからそんなに食べたことないけど」
 一個が三百円以上するアイスだけに、普通の高校生の小遣いじゃそんなに頻繁には買って食べはしないだろう。
 外箱を開けてビニール袋からクッキーサンドを取り出すと、ぱりっと音を立てて悠が食べ始めた。
「うちの兄貴がこれ好きでよく食ってるんだけど、このあたりだとメープル味があそこのコンビニじゃないと置いてないんだ。」
「そうなんだ。もしかして、これお遣いで買ったやつじゃ」
「いいって。また買って帰るから」
 そう言い、良太郎もクッキーサンドを取り出すと、食べ始める。
「……ハル、今日は俺の家に泊まれよ。こんな所に置いてくのは心配だ。」
 食べ終わったところで、良太郎はそう切り出した。クッキーサンドを咀嚼している悠は、軽く首を横に振る。
「別に襲ったりしない。客間あるし、そこに寝るならいいだろう?」
「……久間のことは信用してるけれど、そうじゃなくて、こんな時間にいきなり泊めてもらうのは悪いだろう?」
「大丈夫だと思う。兄貴が大学生の時に友達連れてきたこと何度もあるから。母さんに頼めば、ハルんちにも電話してくれるだろうしな。それに母さん、ハルのファンなんだよ」
「……はっ?」
 最後のひと口になったクッキーサンドを食べようとしていた悠が、良太郎のセリフに動きを止めた。
「ハルみたいな息子がひとりくらいは欲しかったらしい。父さんも兄貴も俺もみんなゴツイくて似た感じだし、それにうちの家族で紅茶の味が判るような繊細な舌を持ったのは居ないからな」
 
 コンビニで下着と歯ブラシ、それにまたメープルのクッキーサンドアイスを買うと良太郎は悠を連れて帰った。
「ハルくん、お久しぶりね。さぁ、上がって頂戴。いまお夜食用意するわね」
 公園から携帯で連絡してあったこともあって、良太郎のただいまの声に、いつもはそれくらいでは居間のテレビの前から動くことはない母親がすぐに出てきた。恐るべしファン効果。しかもドラマをやっているのにわざわざ出てきたあたり、母親には韓流スターより優先順位が高いらしい。
「母さん、電話は?」
「したわよ、ちゃんと。『うちの息子がお遣いに行ったらそちらの息子さんとばったり会って、家に泊めたいって言うので今夜はうちでお預かりします』って」
「……すみません、こんな夜遅くに」
「いいのよ。高校生くらいだったら、おうちに帰りたくない日もあるものよ」
 そう言いながら、居間へのドアを開くと中へと悠を入れた。
 居間にはなぜか兄までいたので、持っていたクッキーサンドの入ったビニール袋を渡した。
「布団は客間に出しておいたから。……母さんが『可愛い可愛い』って言うからどんだけ可愛いのかと思ってたけど、確かに男にしては可愛い顔してるなぁ」
 袋を受け取りながら、そう小さな声で兄が言ってきた。どうやらそれを確かめる為に、わざわざ待っていたらしい。
「こんばんは、久間君と同じクラスの鎮守悠です。こんな夜遅くにお邪魔してすみません」
「いやいや。うちの息子がいろいろ世話になってるようで」
「僕の方こそ、久間君には、良太郎君には助けてもらってばかりです」
 少し顔が赤くなった悠が、はにかむような笑顔で父に挨拶をしていた。
 確かに父には絶対言えないようなことで、毎日『お世話』になっている。
「最近のコーコーセーにしては随分きっちり躾されてるな。お前の友達にしては珍しい」
 そんな感想を言うと、兄は台所の方へと行ってしまった。
「良ちゃんもハルくんも、うがいと手洗いしてらっしゃい。良ちゃんもお夜食、食べるんでしょう?」
「食う」
 もとから悠をひとりにしておくつもりはなかった。だから良太郎はそう答えた。  
 
 夜食の月見うどんを食べ終わった頃には、時計の針は10時半を指していたから、良太郎は悠を連れて二階に上がってきた。
「どうせお話するんでしょ」
 母親はそう言って、ティーセットとプレーンクラッカーを載せたトレイを良太郎に渡してきた。
 今はそのティーセットで紅茶を淹れながら、良太郎は何から切り出そうかと考えあぐねていた。
「キミとキミのお父さん、本当にそっくりだな」
 絨毯の上に座って、ベッドに寄り掛かった悠が少し楽しげにそう話し掛けてきた。その様子に何か微妙に引っ掛かるものを感じながら、良太郎はカップに紅茶を注ぎ入れる。
「あと二十年もするとキミもあんな感じになるのか」
「まぁ、親子だし」
 随分先の長い話だが、他に答えようもない。
 紅茶の入ったカップにスティックシュガーをふたつ入れ、かき混ぜてからピッチャーからミルクを注ぐと、悠の前に置いた。
「あ、ありがと」
 カップを持つとひと口だけ、悠が口を付ける。
「……キミ、僕の紅茶の好み、覚えたんだ?」
「合ってたか?砂糖はふたつ、ミルクはそれくらいの色になるまで入れるだろう?」
「……よく見てるな。」
「そりゃ、好きな相手のことは見てるよ」
 かすかに笑うと、またひと口、カップに口を付けた。
「僕とキミのこと、もうちょっとちゃんと話した方がいいな。たぶん」
 そう言うと、良太郎に向かって手招きをする。
「こっち、来てもらっていいか?」
 呼ばれるままに、ローテーブルのところからベッドに寄り掛かった悠の隣に移動する。
 さっきの公園のベンチのことがあるから、こうやってそばに呼ばれるだけで少し嬉しい。
「……久間、やっぱりまだ僕のこと好きなのか?」
 良太郎をじっと見詰めると、隣の部屋には兄が居ることを気にしてか、少し潜めた声でそう訊いてきた。
 見詰めてくる悠の問い掛けるような視線の強さに耐え切れなくて、思わず眼を逸らすとそれでも頷いてみせる。
「諦めるのは無理?」
「……好き過ぎて、どうやって諦めればいいのかわかんねーよ……」
 つい三時間前に兄に言った言葉と同じ言葉を答えた。
 答えながらも、単純に悠がまた近くに居てくれるということだけで、泣きたくなる程に嬉しくなっている自分がいる。
 それはないと思っていても、夜の遅い時間に自分の部屋に好きな相手がいるというだけで、やっぱり淡い期待を持ってしまう。
「そっか……」
 それだけ言うと、半ば呆れたような半ば諦めたような嘆息を吐いた。
「……今日親とケンカしたのは、家でゴハン食べてた時にテレビで秘境の温泉特集ってやってて、……まぁ親と見てたんだけど」
「うん」
 いきなり変わった話題に、それでも良太郎はとりあえず頷く。
「本当に山奥でこじんまりやってる旅館があってさ。もうなんかすごく行ってみたくなったんだ。人と関わることも少なさそうで、いいな~と思えて」
「うん」
「思わず言っちゃったんだよね、『働いても、来る人少なさそうでいいよね』って」
「うん」
「そうしたら、母さん凄い剣幕で怒るんだよ。『あんなところで働かせる為に育てた訳じゃない。そんなことならあんな良い学校に行かせる必要はない。もしあんな所で働いたら今まで掛かった費用は回収させてもらう』って」
 実の親が言ったとは思えない言葉に、良太郎は唖然としてしまった。
「さすがに我慢できなくて、気が付いたら家飛び出してた」
 ふぅ、とまた嘆息すると、悠は小さく苦笑いを浮かべた。
「いくらなんでも、そのセリフはないだろ……」
 まるで自分の子供を投資する対象にしか見ていないような言葉に、良太郎は思わずそう漏らしてしまった。
「……もう本当に、笑うしかないよな」
「第一、うちの学校公立だから、そんなに高い学費でもないはずだぞ」
「たぶん関係ないんだよ。頑張ってレベル高いところに入ったのは僕なんだけど、すごい履き違えてるし」
「……そりゃ、家も出たくなるな」
「弟にはただ人として真っ直ぐ生きてくれれば良いって感じで。ヤツは学校に行きたくないって言えば、車で送ってもらえるんだよ。雨が酷い日でも、僕は駅までだって送ってもらったことないのに」
 込み上げてくるものがあるのか、切なげに悠はまた息を吐いた。泣き出しそうなくらいに目が潤んでいる。
「どうして同じ親から生まれた子供でも、こんなに扱いが違うのかなぁ……」
 なにをどう言ってやれば、慰めになるのか良太郎には見当も付かない。黙って話を聞いてやるしか出来ない。
「ごめんな、久間。めんどくさい奴で。キミの気持ちを受け入れられないって言った癖に、自分はこうやって甘えて……。ずるいよな」
 やっぱり出てきた謝る為の言葉に、良太郎は「そんなことはない」と首を横に振った。
「ハルが話すことで少しでも楽になれるならそれでいいし、それだけでも嬉しいよ、俺は」
 相変わらず悠に触れられないことに良太郎の指先はちりちりと痛むけれど、同じくらいに役に立てたことはやっぱり嬉しく思える。
「久間……」
「そんな泣きそうな顔して。我慢するなよ。」
 悠の眼は瞼から零れ落ちる一歩手前まで涙を湛えている。名を呟いた声も、少し掠れて震えていた。
「……僕、む、無理なんだ。別に泣くことを我慢した覚えはないのに、いつの間にか泣けなくなってて、無理なんだ」
「だって、前に映画行った時は」
「最近だと思う。ダメなんだ。眼が潤むのは分かるんだけど、そこから、涙が出ない」
 自分でもどうしていいのか解らないと首を振る。
「ここしばらく、九月になってからだけど、母さんがすごい将来のことで不安がってて」
 原因に心当たりがあるのか、そう口火を切った。
「うん」
「もともと父さんとは年が離れ過ぎてるから、ほぼ間違いなく先に死ぬのは父さんだと思う。それでその先の不安が全部僕に向けられてて、それが声になって聞こえて、そのせいで最近上手く眠れない」
 肩を落として悠がそう呟いた。人の心の声が聞こえる故に、自分以外の人間の感情にに影響されてしまう。相手が自分の母親という血の濃さを持つ人間のせいで余計に影響を受けてしまっているのかもしれない。
「先月の、藤代さんのところで久間が一緒に寝てくれた時は、ひさしぶりだったんだ。あんなによく眠れたの。……すごく温かい気持ちが伝わってきて。思えばあれはキミが僕を好きだって思う気持ちだったんだな」
 そんなことを言われれば、良太郎は嬉しくて堪らなくなる。諦めることなんて余計に出来なくなる。
 胸を痛ませる堪らなく切ない気持を逃がすように、良太郎は息を吐いた。
「……あんなに温かい気持ちなんて、親からもらった記憶もない。母さんも父さんも、僕から奪ってばかりだ。なんで僕ばっかり。僕ばっかり、こんな目に遭うのかな」
「……言えばいいじゃないか。自分がどう思ってるか、言ってやればいい。どうして言わないんだ?」
「言わない、じゃなくて、言えないんだよ……」
 掠れさせた声でそれだけ言うと、悠は抱えた膝の上に額を付けて、顔を伏せた。
「だからどうして」
 顔を上げると、視線を逸らしたまま、また口を開いた。
「……久間のお父さん、カッコイイよな。それに頼り甲斐ありそうだ」
「……そうか」
「うん」
 生まれた時からそばにいる家族の外見の良さは、ずっと見ているせいもあって意外と解らなくなっているものだ。家族を良く言われているのだから喜ぶべきなのかもしれないが、良太郎の胸の中には何かで刺されているようにチクチクした感情が生まれている。
 さっきの悠のはにかんだような表情といい、いまの話している時の様子といい、少し面白くない。
 しかし良太郎の父親のことと、それがどういう関係があるのかと思っていると、すぐにその答えが悠の口から零れてきた。
「たぶん僕はね、ファザコンなんだと思う……」
「ファザコン?」
「うん。気が付いたのは中学生くらいだったかな。年上の、頼り甲斐のありそうな大人の男にものすごく弱い。ちょっと優しくされると、もうダメなんだよ、甘えたくて甘えたくて仕方なくなる。抱き締めて欲しくて、胸がきゅうって痛くなる。気に入ってもらいたくて、普段より笑ってるとか、良く見せようとしてるって自分でも解るんだ。『ああいま自分はすごい媚びてるな』って。女の子が好みのタイプの前で媚びるっていうのも、よく解る。あれは半分無意識でやってるんだ」
 悠の口から聞くには、随分と生々しい言葉が出てきた。しかし、もしかして、という考えが良太郎の頭の中を過ぎる。
「ちゃんとオヤジさんいるよな?」
「……小さい頃、単身赴任でいなかった時期あってさ。物心付いた時には、自分の父親だってもう認識出来なくなってたんだ。僕にとってはただのオモチャを買ってくれる人。今だって、自分の父親だって理解はしているけど、僕の心の中ではずっと父親は欠けたままなんだ。母さんは自分の実の父親が頼りなかったから、そのせいでファザコンで、親子くらい年の離れた父さんと結婚したって言ってたけど、それが原因ででまた僕に自分と同じ思いさせてるってなんて、思ってもみないだろうな。……本当にあの人は僕からいろんなモノを奪っていく」
 そう言って、軽い諦めの混じったような息を吐く。
「僕は親を裏切っている。だから何も言えない。……なんとなく解ったか?僕が何を言いたいか」
 悠の自嘲気味な態度に、まさかという思いが良太郎の頭の中を駆け巡る。
 それは喜んでいいのか、それとも悲しむべきなのか。期待を持っていいのか、それとも持たない方がいいのか。
 良太郎の中で感情が複雑に入り混じる。
 自分は悠が好きだ。触りたくて、抱き締めたくて、セックスしたくて堪らない。
 でもその望みが叶うと、同性と付き合うということになる。一時的にせよ、良太郎も悠もゲイかと誰かに聞かれれば否定出来なくなる状態になる。
 もし悠がそうであれば、良太郎の想いを受け入れてくれる可能性は高くなるのかもしれない。
 しかし今の話の流れでは、悠は自分がそうであるということを、多分疎ましく思っている。
 良太郎には悠が疎ましく思っていることをさらに押し付けるような真似など出来ない。
 どうして悠ばかりが、という想いに駆られる。笑っていて欲しいのに、何かが噛み合わない。
「久間、僕はね」
 悠が良太郎を見ると、何かに疲れたような、諦めたような、それでいてとても寂しげな笑いを浮かべた。
「僕はゲイなんだよ。それも男に抱かれたい方の、な」
 
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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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水鳴沢

Author:水鳴沢
自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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