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2010-08-04(Wed)

五行風水記~クマとハルカ~彷徨う心

 
 やっぱりそうなのか。
 そう思う良太郎の視線を受けながら、悠が口を開いた。
「それならどうしてキミの告白を断ったのか、聞きたいか?」
 悠は抱えていた膝を崩すと、もう一度ベッドに背中を預けた。
 良太郎の顔は見ずに、ローテーブルのあたりに視線をやったまま、穏やかな声が話し始めた。

「自分がゲイだって僕が気付いたのは、まだ小学生の、それも低学年の頃だ。
 まだその頃はゲイなんて言葉も、同性愛なんて言葉も知らなかった。
 ただ自分が「普通の大人」になれないってことに、ある日突然気が付いた。
 普通に結婚して、普通に家族を作って、そのうち自分の子供の顔を親に見せる。
 どうやら自分にはそれが無理だって解ったその日から、僕の心はいつも何かに怯えていた。
 知られたら親に捨てられるんじゃないかって、ずっとそんな風に思ってきた。
 そしてはっきりとその理由が自分がゲイだからって自覚したのは、中学生の時だ。
 夢の中で大人の男に抱かれて、喜んでそれを受け入れている自分を知ってしまった。
 嫌悪感なんてまるでなくて、そうされることを幸せだと思う自分を知ってしまった。
 自分に嘘を付くことなんて、もう出来なかった。
 その時から僕の心にはぽっかりと穴が開いたような、暗くて深い闇があるんだ。
 もう多分それは絶対に消すことは出来ない。
 どんな生き物も自分の子孫を残す為に、この世界に生まれて来て、命を繋ぎ続ける。
 それが大前提だ。
 でも僕には、僕たちにはそれが出来ない。
 なんせ女の身体に興奮しない。美術館のレリーフとたいして変わらない。ただの肉の塊と変わらない。
 どんなに頑張っても、心も身体も興奮しない相手とはセックス出来ない。
 でも好きな相手とセックスしても、相手が同性じゃ子供は生まれない。
 次の世代に血を残せない。
 事故でも病気でもないことで、続いてきた血脈が僕で絶える。
 それでは何の為に生きているのか、何の為に育てられているのか、意味が解らない。
 親にとってはこれ以上の裏切りはない。
 どんなことをしても、最後には期待を裏切ってしまう。
 だから僕は親に何も言えないんだよ。」
 
「そして、キミにそんな思いをさせる訳にはいかない。 
 同性同士の、男同士のセックスは気持ちが良い。
 肉体的な感覚も、力関係での縦社会的な意識も共有しやすい。
 言葉にしなくても理解しやすい。そしてそれが心地良い。
 それにコンドームなんて面倒なモノを付けて、避妊もしなくてもいい。
 男は快楽に弱い生き物なんだ。
 そして男であることを学習して男になった男は、簡単に女に対して男であることをやめてしまう。
 中には男同士のセックスに若いうちに慣れて、二度と女とセックス出来なくなる人もいる。
 そうなってからようやく気が付くんだ。自分が血を残せなくなってるってね。
 元からゲイであってもなくても、中には自分が選んでしまったことの重さに耐えられなくて、命を生み出せない自分がこの世界に生まれきた罪の意識に押し潰されて、絶望で自分の未来を塗りつぶして、心を壊して死を選ぶ人もいる。
 同性愛者の自殺率は、そうでない人間よりずっと高いんだ。
 僕はそんな辛い思いをキミにさせたくない」

 もともとゲイである僕とは違う、と言い、さらに続ける。
「キミが僕を好きな気持ちだって、思春期にはそういうこともあるっていう、きっとそんな一過性のものでしかない。だからきっとそのうち忘れられる。たまに思い出して、そんなこともあったって思うようになれる。だから忘れて、可愛い彼女作って、結婚して、家庭を作って、そして親に自分の子供を見せてあげなよ。あんなに愛してくれてる親を裏切ったらいけない。悲しませたらいけない。きっと後悔する。後悔するに決まってる」
 悠はカップを手に取って、じっとその中身を見詰めている。その横顔を見ながら、相変わらず整った顔立ちをしていると良太郎は思う。
「高校生から考えるようなことじゃないって、もっと気楽に恋していいんじゃないかって思うか?」
 良太郎がそう思っていたことが顔に出ていたのだろうか。
「気軽に恋なんて出来ない僕の気持ちが解るか。気が付けばゲイだった。今までの人生で幸せだと思ったことなんて一度もない。だから余計に自分を騙して、相手を騙して、みすみす不幸にしかならない結果なんて考えられない。いまキミの気持ちに応えてしまえば、間違いなくキミは同性とのセックスに慣れてしまう。下手をすれば二度と女の子と出来なくなるかもしれない。知らなければ良かったことを知ってしまったせいで、満たされないモノを抱えてしまうことになる。僕がキミの平凡な幸せや未来を消してしまうかもしれない。そんなのは嫌なんだ。自分のせいで誰かが不幸になるのは、本当に嫌なんだ。それにキミは僕の初めての友達だから。だからちゃんと幸せになって欲しい」
 自分より他人の幸せを願える人間こそ、幸せになる権利があると言うのは誰の言葉だっただろう。
 なら、悠の幸せはどこにあるのだろうか。
 良太郎の為を思って、言葉を紡ぐ悠を見ながら、ふとそう思った。
「いくら考えても考えても、どうして自分がゲイなのか、答えは見付からない。たくさんの本を読んで、ネットで調べて。でもわかったのは同じように不安を抱えて生きてる人間がいるっていうことだけ。答えは見付からない。見付からなくて当たり前だった。だって僕らは最初から欠けて生まれてきたんだから、答えがなくて当たり前なんだ。でも罪の意識に苛まれて、答えを探さずにはいられない。考えずにはいられない。知られた時の言い訳を探さずにはいられない。只でさえゲイだと判れば、それだけで責めたてて、差別しようとする人間がいる。だからそれが判らないように、ばれないようにいつも何かに脅えるようにビクビクしながら、息を殺しながら、どこか自分を誤魔化しながら、道に映る自分の影を見詰めながら生きていないといけない。たとえ平気な顔をしているように見えても、実はただ強がってるだけで、心の奥底では不安を抱えながら生きている。カミングアウトをするたびに、相手の何気ない言葉の刃で刺されることを覚悟する。本当はもっと楽に生きたいのに。ありのままに生きて生きたいだけなのに。息をするように歩いていきたいだけなのに。過剰に認めて欲しいとは思わない。ただそこにいることを許して欲しい。隣で息をすることを、笑うことを許して欲しい。ハンデを背負って生きている人間は、生きているだけで賞賛されることすらあるのに、なぜか僕らは生きているだけで責められる」
 悠はまるでどこか見知らぬ場所に置き去りにされてしまった子供のような、本当の迷子のように途方に暮れたような表情を良太郎に見せる。
「……僕は、僕たちはこの世界で生きることが本当に許されているのか?……僕には……僕にはわからない」 
 
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テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

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自分の書いてるものはオリジナルBL小説ライトノベル風味じゃないかと思います。

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